ノート(コラム)

本コラムは、主に「エンパワーされた人材」や「フラットな組織」に関わる内容について弊社代表・朝尾が記したものです。

キャリア上の意思決定は結果がすべてか?  [2024/02/18]

まれなことですが、研修に行った先で「転職を考えているが・・・」という相談めいた話をされることがあります。昨年、とある研修のあと、そんな声掛けをされました。「思い切ってベンチャー的なことに挑もうかと考えているが、もしうまくいかなかったら、とも思う。どう思うか?」というような話でした。

立場上、転職の背中を押すようなことはできませんし、短い立ち話ですから、アドバイス的なことはろくに言えませんでした。ただ、「立場を離れて、同じような相談を受けたらどう答えるべきだろう?」という問いが頭に残りました。


この相談は表面的には「どういう意思決定のしかたをすれば、より良い結果が得られるか」という問題設定に見えます。裏に「転職した結果が良いか悪いかで、意思決定の良し悪しを評価する」考えがあるように思えます。

しかし、私自身の考え方はそればかりではないと気づきました。「転職の意思決定の良し悪しを、その後の結果だけで評価すべきではない」というものです。

初めの話であれば「ベンチャー企業(今、スタートアップって言いますね)に転職したが、事業がうまくいかず、その後の収入も大きく減った」としても、必ずしもその意思決定が失敗だった、悪い意思決定だった、とは言えないという捉え方です。

「スタートアップで新しい事業に挑戦すること」自体が本人にとって十分に価値が高ければ、収入の減少を補って余りあるかもしれませんし、その前に「リスクを覚悟でその道を選ぶこと」に価値を感じるかもしれないからです。

もし結果だけで評価するなら、現状にある程度満足していれば、リスクを負ってまで方向転換する道は選びにくいでしょう。でも、何かに挑戦する意欲や、別の道に進みたい気持ちが確かにあるなら、それを大切にすること自体に価値があると思うのです。

誤解のないように付け加えると、「どういう意思決定のしかたをすれば、より良い結果が得られるか」という問いが不要だという意味ではありません。できるだけ望ましい結果を得るための努力や、リスクを最小化する工夫、さらには周囲の理解を得る努力も重要です。できることはやるべきです。

ここで言いたいのは、それでも、将来の結果には自分でコントロールできないこともあると覚悟したうえで、そこに身を置くことに価値を見出してもよい、という点です。


しかし、転職を勧めるつもりはありません。積極的にリスクを負うことが大事なのではないのです。

実際、数年前10歳ほど年下の友人から転職の相談を受けたときには、どちらかと言うと転職しない方の選択肢を勧めました。大事なのは自ら「転職しない」という意思決定をした感覚を持つことだと考えます。

ふだん「転職をしない」という選択はあえてするものではないので、放っておくと現状維持が続きます。いつの間にか会社に人生を預けたような感覚になってしまい、その結果の良し悪しを会社や環境のせいにしてしまうかもしれません。

ですから、毎年でなくてもよいでしょうけれど、何かのタイミングで意識的に今のキャリアを選んでいる感覚を持てるようにしておくとよいと思います。


つまり、大事なことは、結果だけで意思決定の評価をすることでも、リスクを負ってキャリアの転換を図ることでもありません。進む方向を自分の意思で舵取りしている感覚を得られる意思決定が大切なのです。それによって、結果の良し悪しに関わらず起こったことを当事者感覚を持って受け入れ、向き合えるのだと思います。

そもそも、将来の出来事について個人がコントロールできることは限られています。予期せぬ出来事に見舞われてキャリアの中断や転換を余儀なくされることもありえます。そんなとき「自分の人生」に起こったこととして受け入れられるかどうかは、ふだん自分の意思で舵取りをしている感覚を持っているかどうかに掛かっているのではないでしょうか。


「正味・純」と「実質」 [2023/10/24]


正味・純」と「実質」は似たような意味で使われます。

手元の広辞苑(けっこう年季の入った電子辞書に入っているもの)で調べてみました。

正味 ① 外皮や付属部分を取り除いた中身。また、その目方、数量。実質。
「正味三〇〇グラム」「正味八時間働く」
②③は省略

①他の物が少しもまじらないこと。
  「純粋・純金・純米・純利益」
②は省略

実質 物事の内容または本質。
「名目だけで実質が伴わない」

実質賃金: 名目賃金に対して、その貨幣額で買いうる物量を考慮にいれた賃金をいう。通例、名目賃金を物価指数で除して示す。↔名目賃金

正味・純

正味」はわかりやすいですね。丸ごとから、中身以外のものを引いて残った分です。この辞書の「」には「正味」と同じ意味だという説明がありませんが、「純量」の項を見ると「総量から風袋(ふうたい)および不純物の目方を引き去った純粋の目方。正味。」という説明があるので、同じとしておきます。

会計では貸借対照表に「純資産」というのがあり、資産全体から負債を引いて残る「正味」の株主の資産(持分)です。このとき、資産全体(資産合計)のことを「総資産」と言います。つまり、丸ごとが「」、そのうち正味が「」という関係です。

損益計算書では、売上高から売上原価を引いた、最初の(最も広い捉え方の)利益が「売上総利益」。そこから他の費用や税金をすべて引いて残った、株主の取り分にあたる利益が「純利益」です(*)。

*:わかりやすく「他の費用や税金をすべて引いて残った」と書きましたが、実際には途中で足される収益もあります。

実質

実質」のほうは、「実質賃金」の説明がわかりやすいと思います。

例えば、名目賃金(そのままの金額)が5年前の30万円から、10%増えた33万円になったとします。その間の物価上昇率が 5%であったら、
330,000円 ÷ 1.05 = 314.286円
なので、実質賃金は 5%弱(4.76%)しか増えていません。
314,286円 ÷ 300,000円 =  1.04761...

このように、名目の金額を、物価上昇の影響などを取り除いたものに換算した金額が「実質」です。ここでは(1+物価上昇率)の「1.05」で割りました。賃金にかぎらず経済指標で物価上昇の影響を取り除くことが多く、GDP(国内総生産)の実質成長率〇%」といったニュースの見出しをよく目にします。

仮・まとめ

簡単に言うと、

・・・と理解していましたが、最近、「実質」が「正味・純」と同じ意味で使われてる事例に気づきました。


「実質=正味」の用法も

2050年に温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする」という表現です。「総排出量」から森林などによる「吸収量」を引いた「正味の排出量」をゼロにすることを意味しています。

先と同じ辞書で調べてみると

実質預金: 銀行の総預金から他店払いの手形・小切手などを差し引いたもの。銀行が貸出や証券投資に運用できる資金量を算定するための数字。

という言葉がありました。明らかに「正味・純」の意味ですから、以前からこの意味での使い方があったと考えられます。

まとめ

FSA Credential Level II 検定試験について [2023/08/22


受験者の参考になるかもしれないメモです。FSA Credential Level II については、こちらの News もご覧ください。

私は 2023年の6月にFSA Level II を受けて、幸運なことに一回で合格しました。試験問題の内容については禁止されていますので、それに触れない範囲で体験を記します。(だらだらっとした書き方をご容赦ください。)

受験会場は、Level I のときと同じ、渋谷道玄坂の Pearson VUE テストセンター。試験環境の詳細は、Level I についての記事(こちら)をご覧ください。

試験時間は120分間。ミニケースが13件、それぞれに数問の問いがあり全部で55問。いずれも選択肢から回答します。

事前の感触で、丁寧に読んで回答すれば8割近い正答率が得られそうなことがわかりました。しかし問題は時間。英文を読むスピードが遅く、2時間で13ケース(1ケース10分未満)をこなし切れません。11ケースぐらいで時間切れになりそうなこともわかりました。合格ライン(点数)は示されていません。Level I の試験(1度目)では7割で不合格だったので、75%~80%と推測していました。とすると、回答スピードを上げるか、正答率を上げるかですが、どっちも厳しいので試験直前「残念ながらダメかも・・・」と感じていました。できることは、当日の集中力を高めることぐらい。

本番ではケースや設問に通し番号がないので、どこまで終えたのかわからないまま回答を続けました。何ケース終えたのかわかりません。取り組んでいたケースの設問に答え切らないまま時間切れになったので、完了しなかったことは確かです。だから、その時点でも「ダメだったのでは・・・」という手応えでした。

ところが部屋を出て結果を見せてもらったら、なんと合格! うれしいサプライズでした。(ざっくり推測すると、回答率が 13ケース中12ケースの途中まで、12.5 ÷ 13=96%。回答の正答率80%だったとして、96% × 80% =77% ぐらいだったかな?)


Level II で求められる学習時間は、30時間とされています。それほど難易度の高い試験とは言えないでしょう。ただ、テキストも試験も英語なので、そこにハードルがあります。私の場合、サンプル問題を含めて60時間近くかけました(細切れ時間でテキストを読み進めたので、あまり正確な時間数ではないですが、プラマイ5時間ぐらいの誤差範囲だと思います)。

テキスト(Study Guide)の英文は、Level I よりも少し易しいと感じました。Level I のテキストで見慣れた単語が出てきたせいもあると思いますが、Level II の方が読みやすいように感じました。

数値を計算して答えるものもありますが、伝統的な会計指標(ROIC など)を算出する問題はありません(テキストにもそのように書いてあります)。

私の学習方法は、テキストを読んで、問題に取り組む、という基本的なものです。試験に必要そうなキーワード類はピックアップして暗記を心掛けました(結果、覚えきれないのですが)。

印象としては、テキスト全体からまんべんなく問題が出る、というより、問われる内容が限られています。そのため、テキストをざっと読んでからサンプル問題に取り組んで、再度テキストのうち重要そうな部分だけしっかり読み込んでいく方が効率的かもしれません。

以上です。これから受験する方のお役に立てば幸いです。

売上・売上高、収益・収益性、資本・資本金 [2023/03/30]


財務・会計用語には似たような言葉が出てきて混乱しませんか?
「売上」と「売上高」、「収益」と「収益性」、「資本」と「資本金」も似ていますね。(区別がつきますか?)

このうち「売上」と「売上高」はあまり区別しなくてかまいませんが、残りの二組は区別しておくことが重要です。


1)「売上」と「売上高」

「売上」は個別の取引についての言葉、「売上高」は一定期間の「売上」の合計金額を指します。
とはいえ会話では「売上高」を短縮して「売上」と言うことも多いので、経理業務以外で区別する必要は少ないでしょう。


2)「収益」と「収益性」

「収益」は損益計算において売上高などの増加項目を指します。利益の計算で足し算をします。
売上高のほかに「売上収益」「営業収益」「営業外収益」のような項目があります。反対の減少項目は「費用」です。

ところが「性」が付いた「収益性」は「利益率」を指す言葉です。「収益」と意味が変わるので注意しましょう。

売上高利益率や総資産利益率、自己資本利益率などが「収益性」の指標です。
なお「収益性」は分析用語なので財務諸表の中には出てきません。


3)「資本」と「資本金」

「資本」はいくつかの使われ方があります。「人的資本」「自然資本」のように「〇〇資本」の形で使われることもありますが、ここではそれと少し違う、財務諸表の用語としての「資本(equity)」に絞ります。(*1:詳しくはこちらの記事をご覧ください 「資本」ってややこしい!――2つの意味が混在

この「資本」は日本の会計基準で作られた貸借対照表の「純資産」に当たります。国際会計基準や米国会計基準では「純資産」のことを「資本」と呼ぶのです。(*2: 国際会計基準、米国会計基準では貸借対照表を財政状態計算書と呼びます。)

一方、「資本金」は株式会社などに元手として払い込まれた資金の金額(の一部)を指します。貸借対照表の「純資産(または資本)」区分の中の一項目です。「純資産(または資本)」の中には、これ以外に会社の利益の蓄積である「利益剰余金」なども含まれるので、「資本」と「資本金」の金額は異なるのがふつうです。区別をしておきましょう


要約

「売上」と「売上高」はほぼ区別不要。
「収益」は売上など、「収益性」は利益率なので、意味が変わる。
「資本」は貸借対照表の「純資産」と同じ、「資本金」は「純資産」の一部なので区別する。

FSA Credential Level I 検定試験について [2022/11/10]


受験者の参考になるかもしれないメモです。FSA Credential Level I については、こちらの News をご覧ください。

私は、2022年の6月と10月に、FSA Level I の検定試験を受けました。6月は不合格、2度目の10月に合格できました。試験問題の内容については一切明かすことができません。禁止されています。

渋谷道玄坂の Pearson VUE テストセンターで受験。何も持ち込むことはできず、ロッカーのカギとID一枚を持って入室し、PCのマウスをクリックするだけです。メモ用のプラスチックシートとマーカーを貸与されますが、使いませんでした。同じ部屋に、ほかの検定試験を受けている人たちがいます。

PC画面に簡単な説明が表示されたあと、自分でスタートできます。試験時間は120分間。問題数は110問。画面の右上に残り時間と回答した問題の数が表示されるので、それを頼りに時間を意識しながら回答を続けました。

開始前の説明によれば、110問のうち90問だけが採点対象で、残りは調査分析目的らしいです。しかし、どの90問が採点対象なのかわからないので、受検者にとって、110問であることに変わりありません。

後で見直したい問題には、フラグを付けておくことができます。 私の場合、そもそもほとんど時間が余りませんでしたが、1回目はフラグ機能を理解しておらず、2回目はフラグを付けたうち、1、2問だけ見直すことができました。


ところでこの検定試験は、合格ラインがわからないのが問題です。探しても見つかりませんでした。

1回目の受験結果レポートには、5つの分野別の問題数と自分の正答率が載っていました。逆算すると、90問中64問、つまり71%が正答だったようです。しかし不合格。分野は5つに分けてありますが、分野ごとの正答率要件はない、という説明があります。あくまで90問に対して正答がいくつあったかで判定されるそうです。

そして、不合格者の中で5段階中のどのレベル(Band)だったかが示されます。私は Band 1 で、最も合格に近いレベルでした。このレベル分けの基準は点数(正当数)だと思われます( we have grouped candidates who did not pass based on how close they are to the passing score.  )。

2回目は、合格したという表示だけで正答率は記載されていませんでした。90%正答だったという自信はないのと、1回目が Band 1 だったことから、80%ぐらいが合格ラインでは、と推測するのみです。


勉強法は地味なことしかしていません。Study Guide を読む。Sample Question に取り組む。間違った箇所は、再度 Study Guide を読む。目次をパワポに書き写して、その間にキーワードなどをメモ書きする。主な表や図には、Study Guide の PDFに「しおり」を付けて探さなくても見返せるようにする、などです。中でも、Sample Question は重要だと思います。Study Guide の内容がどのような問いになって出題されるのかが、何となくつかめた気がします。

以上です。

IFRS 採用企業の「事業利益」≒「日本基準の営業利益」


(従来一般的な「事業利益」の定義)

従来の一般的な定義は、

「本業と金融収益(受取利息や配当金など)を合計した企業の総合的な利益創出力を測定する指標」

であり、計算式は

事業利益 = 経常利益+営業外費用 (または = 営業利益+営業外収益)

です(定義により細かい違いがあります)。ここで、経常利益に営業外費用を「足す」のは、すでに引いた費用の足し戻しです。


(IFRS 採用企業の用いる「事業利益」)

ところが、最近 IFRS 採用企業では、これとは異なる「事業利益」をよく見かけるようになりました。企業独自の指標として用いられるもので、IFRS の指標ではありません。「日本基準の営業利益」に相当する指標であることが多いようです。

そもそも、「IFRS の営業利益」は、日本基準の営業利益と特別利益、特別損失を合算したような指標なので、非経常的なものまで含まれます。非経常的な項目を除外して、経常的な部分だけで捉えた利益水準を示そうとする指標のようです。

事例で見てみましょう。(この2社を選んだ理由は、最近の四半期決算のニュース記事で「事業利益」という言葉が目に入ったためです。)


1.東レ株式会社 

2022年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結) によると

「事業利益は、営業利益から非経常的な要因により発生した損益を除いて算出しております。」

とあります。具体的に除外されているのは、固定資産売却益・固定資産処分損・減損損失の3項目。これら除外項目の金額は、営業利益の計算で加減算される「その他の収益、その他の費用」の金額とは一致していません。

つまり、「事業利益」は「売上総利益 - 販売費及び一般管理費」に、金額が近いが、同額ではありません。


2.アサヒグループホールディングス株式会社

2021年12月期 決算短信〔IFRS〕(連結) によると

「事業利益は、売上収益から売上原価並びに販売費及び一般管理費を控除した恒常的な事業の業績を測る当社独自の利益指標です。IFRS で定義されている指標ではありませんが、財務諸表利用者にとって有用であると考え、自主的に開示しております。」

とあります。つまり、同社では「売上総利益 - 販売費及び一般管理費」であり、「日本基準の営業利益」に相当します。こちらの場合、結果的に除外されているのは「その他の営業収益、その他の営業費用」です( IFRS の営業利益の算出に含まれていて「事業利益」の算出に含まれていない)。


(従来一般的な「事業利益」の定義・補足)

従来の「事業利益」の定義について、最初に挙げたもの以外の説明も紹介しておきます。

「事業利益とは、文字通り、事業が生み出す利益のことである。事業利益は制度で規定された利益ではないので、少なくとも以下の3つの定義式が存在する。」


※ 2, 3 では「支払利息」が足されている点に注意。すでに引いたあとの利益に足し戻す計算です。

※ この記事でも、本記事と同じく IFRS 採用企業の「事業利益」が上記と異なる意味である点が指摘されています。

(2022/08/26)

「資本」ってややこしい!――2つの意味が混在

財務諸表の一つ、貸借対照表に「資本」という区分があります。今の日本の会計基準では「純資産」という名称に代わっていますが、2006年以前は「資本」でした。今も、国際会計基準(IFRS)を適用している会社の多くでは「資本」が使われます。

同じ会計分野で「投下資本」「総資本」「運転資本」といった言葉が出てきます。これらの「資本」は、貸借対照表の「資本」とは意味が違います。

えー!?そうだったの? と思う方もけっこう多いのではないでしょうか。この2つは英語では equity capital という別の言葉(equity が貸借対照表の資本)。これがややこしさの原因です。裏返せば、2つの言葉の使い分けがわかれば、ややこしさが解消します。


「capital の資本」

Wikipedia 資本 より(一部。太字化は引用者)

原義

一般的な用法、基本的な用法としては、事業活動を行うための元手となる金のことである。

また派生用法として、比喩的に仕事や生活を維持していくための収入、あるいはその元となるもののこと。

使用例としては「商売をはじめるため、商売の資本を集める」「サラリーマンは体が資本だ」など。

Money Forward クラウド会計 「会計用語集」 資本とは より(一部)

近代経済学においては土地および労働と並ぶ生産三要素の一つとして定義されており、生産活動を行うために欠かせない要素であるという点は共通しているものの、建物や設備といった物的資本や労働者の健康状態のような人的資本も含まれる。


人的資本を除けば(*1)、これらは事業・生産活動に使われるお金や設備などです。事業や生産活動のために「投下された invested 」もので、貸借対照表では「資産」に分類されます。つまり「capital の資本」は事業・生産活動のために投下されているお金や設備などの資産を指しています(下の図を参照)。しかし、貸借対照表の「資産」の内訳に「資本」という言葉が出てくることはありません(*2)。

「equity の資本」

これに対して、貸借対照表の純資産に当たる「資本」はequity の資本」で、所有権を表します。複数の人などが、お金を出し合って共同所有するものについての「持分」(もちぶん)、所有している部分・割合のことです。貸借対照表には「資本 equity」とほとんど同じものを指す「株主資本 shareholders' equity」という項目がありますが、これを「株主持分」と言い換えるとイメージしやすいでしょう。つまり、会社が所有しているのは貸借対照表の「資産」。そのうち株主が所有している部分(=株主持分)が「株主資本」≒「資本」です(上の図を参照)。なお、「資本」以外の部分は「負債」で、例えば、お金を貸した金融機関が返済してもらう権利を持つ部分です(ここは所有権とは言いません)。

このように、「capital の資本」と「equity の資本」は、まったくと言っていいほど意味が違うのに、同じ「資本」という言葉が使われています。この2つの意味が混在していることがわかれば、ややこしさが解消するはずです。


おまけ:「資本金」はどちらの「資本」か?

「資本金」と「資本」は、たった一字違いですが意味が違います。株式会社を設立するときに株主から払い込まれた金額を「資本金」と言います(*3)。貸借対照表では「資本(equity)」に分類される重要な項目です(日本の会計基準では「純資産」の区分)。つまり「equity の資本」の一部。ところが、英文では ”paid-in capital”(ほかの表現もあり)で「capital の資本」の仲間です。

「資本金」は「equity の資本」に含まれるのに、なぜ「capital の資本」の仲間なのでしょうか? 

次のように考えれば違和感がないと思います。そもそも「資本金」は「事業活動を行うための元手となる金」として払い込まれた金額ですから「capital の資本」の意味があります。そして、その所有権はもちろん株主にあるので「equity の資本」に分類される、というわけです。


おまけ2: 「equity の資本」は「持分」にしては?

個人的な見解ですが「equity の資本」には「持分」という言葉を充ててはどうかと考えています。Equity に相当する適当な日本語がほかにありません。「純資産」は「株主にとっての正味の資産」という意味で適切ですが、英文で net assets を連想してしまうのが難点です。Net assets は、どうやら Equity と同じものを指さないのです。Equity を「持分」、Shareholders' equity を「株主持分」とすれば、すっきりしそうです。


*1)  「人的資本」は貸借対照表に掲載されないので除外しました。「人」は所有できないので、今のところ資産として認識されません。

*2)  「資産」の内訳の勘定科目に「資本」が付く言葉はありません。税務分野で、修繕にかかる費用(投資)として「資本的支出」という言葉があり、これは「 capital の資本」に当たります。

*3)  「資本金」は払い込まれた金額の記録です。払い込まれた現金の方は「資産」の一部となって、使った分だけ減っていきますが、記録である「資本金」のほうは減りません。

Windows PCで iPhone の音声入力を使うには?

iPhone や iPad で音声入力に慣れると便利なので「Windows PCでも使えないか?」と考えませんか?

数年前にその方法を探しました(*1)。

例えば Gmail に限れば、iPhone で下書きして、PCで下書きを開いて編集する方法があります。とはいえ、途中で(PCで)編集をしながら進めたいときには少し面倒。それに、この方法はメール以外では使いにくい。

たどり着いたのが、Remote Mouse (リモートマウス)というアプリを使う方法。そもそも、iPhone を Windows PCのマウスとして使うものです。

タッチキーボードを表示させて文字入力もできます。さらにそれを音声入力に切り替えれば、iPhone で音声入力したテキスト(文字)を、「送信」ボタンにワンタッチするだけでPCのカーソル位置に送れるのです! PCで編集しながら、切り替え作業なしで、音声入力を続けることができます。


利用環境など


*1: Windows にも音声入力のしくみがあるけれど、数年前に試したときには、iOS の音声入力に比べて性能がかなり低く、実用性がありませんでした。今はどうなんでしょう?

2022/02/23

外付けモニターを活用する

今さらですが、ノートPCで仕事をしている方で、もしまだなら、外付けモニターの利用をお勧めします。というのも、先日、私より少しだけ年配の方と話していて「持っているのに使っていない」と伺ったからです。もったいない!


外付けモニターのメリット

「ノートPCの画面で足りる」という方もいると思いますが、一度外付けモニターに慣れたら快適過ぎて、ノートPCだけだと窮屈に感じるほどです。外付けモニターは安いので、持っていない方にもお勧めできます(もちろんPCの使い方次第ですから「すべての人に」というわけではありません。)


細かい使い方は、人それぞれでよいと思いますが、ご参考までに私の例を紹介しておきます。以下、Windows PC が前提です。

外付けモニターのサイズは、23インチワイド。Dell のを、もう10年以上使っています。購入時で2万円強(寿命を考えるとPCに比べて安い!)。もし手に入れば「ワイドでないもの」がお勧め(あとで詳しく)。

位置関係は上下お勧め。私は、手元にキーボードが来るようにノートPCを置き、傾けた画面の上、背筋を伸ばした目の高さにモニターの上辺が来るようにしています。画面が左右に並ぶように、ノートPCにスタンドをつけたり、外付けキーボードを使ったりしたこともありますが、結局、シンプルな配置に落ち着きました。

ディスプレイの設定は、マルチディスプレイの「拡張デスクトップ」にします。「複製」にする方法もありますが、拡張にすれば別の内容を表示できるので、外付けの分が丸々広がります。Zoom で会議をしながら別の資料を開くときも便利です。

マルチディスプレイの設定では、実際の画面の位置関係に合うように、「1」と「2」を配置しておきます。私の環境では、ノートPCと外付けモニターのの解像度(ドットの数)がちがうせいで、ウィンドウやフォントの表示サイズに違いが出るものの、位置関係さえずれていなければほとんど困りません。

参考: マイクロソフト: アプリケーションで複数のモニターを使用するWindows


外付けモニターを新たに買うときのポイントは3点。

1.  縦幅(上下=短辺)が広い方が使いやすいです。同じインチならワイドのほうが縦幅が短いので、ワイドでないほうがよいです(しかしあまり売っていない)。私の使っているものが 29 cm(ワイドタイプ)、妻が使っているものは 32 cm (ワイドでない)で、横幅はほぼ同じ。たった 3 cm(10%) のちがいなのに 32 cm の方が快適です。

2.  高さ調節は、とくに外付けモニターとノートを上下に配置する場合に重要です。妻の外付けモニターは高さ調節がなく位置がやや低いので、ノートPCの画面を低く傾けないとぶつかってしまいます。

3.  画面の回転(スイーベル)は、A4縦の文書を編集するときに便利です。モニターを90度回転させると、A4縦がほぼ実寸で全体表示できます。


以上が外付けモニターのメリットと、設置・設定などのご紹介でした。画面が広く使えると作業効率が高まるだけでなく、ストレスも減ります。PCに比べて価格も安く寿命も長いので、投資効果の高い買い物だと思います。

(2022/02/12)

純利益、当期純利益、当期利益

損益計算書の最後の行の「当期純利益」。(実は最後ではないのですが、それは後半で・・・)
当期利益」と書かれていたり「純利益」と書かれていたりして、ちょっと混乱しませんか? 
使い分けがあるのでしょうか?


「当期」=1年間

まず「当期」というのは、その1年間の決算期を指します。
四半期(3か月間)の損益計算書では、「四半期純利益」や「当期」なしの「純利益」になります。


「純」はあってもなくても同じ

また、国際会計基準(IFRS)で財務諸表を作成している会社の場合は、「当期純利益」の代わりに「当期利益」と表記されるケースが多いです。つまり、利益に関しては「純」の有無による違いはないのです。
国際会計基準の場合には、英文表記の日本語訳になっているので、このようなことが起きます。(会社によっては、日本語の会計用語に置き換えているものも見かけます。)


Net income = (Net) profit = (Net) earnings

純利益」は英文の "Net income"  に対応し、「(当期)利益」は、"Profit ( for the year )" に対応していることが多いようです。"Net profit" という表記も見たことがあります。ただ、”Net” なしの ”Income” を使った例は見たことがありません。"Earnings", "Net earnings" も同じ意味で使われています。
これらの使い分けは慣習でしかないと思われます(何かわかれば教えてください)。


「一株当たり」では Earnings 

「一株当たりの純利益」は "Earnings Per Share" (EPS) と表記されるようです。計算に使われる純利益が "Net income" と書かれていても、です。


実は「当期純利益」は最後ではない!

ところで、最初に「損益計算書の最後の行に来る」と書きましたが、上場企業などの「連結」損益計算書では「当期純利益(または当期利益)」でおしまいではありません。「連結」はグループの決算であることを表します。

当期純利益」はすべての株主にとっての利益なので、そのうち「親会社の株主の取り分」がいくらかが表記されます。これは「親会社株主に帰属する当期純利益」「親会社の所有者に帰属する当期利益」などと表記されます。
「帰属する」というとわかりにくいですが「取り分に当たる」という意味です。
次のように、帰属先が表形式で示されることもあります。

当期純利益の帰属

  親会社の所有者       xx,xxx 

  非支配持分         xx,xxx

―――――――――――――――――――――

  当期純利益         xx,xxx


ROE の計算には「親会社株主・・・」用いる

ROE(自己資本当期純利益率)の計算をするときには、「親会社株主に帰属する当期純利益」を用います(表記名称に多少の違いはあります)。
ROE の計算式を調べると、たいてい〔 当期純利益 ÷ 自己資本 〕のように書かれていますので、注意が必要です。分母の「自己資本」が「親会社株主の持分」に当たるので、分子も「親会社株主に帰属する当期純利益」を用います。

(2022/01/19)

Zoom メモ:
ブレイクアウトルームの操作


共同ホストが複数いるとき、ブレイクアウトルームに参加者を「自動」(ランダム)で割り振ると、「ブレイクアウトルームの操作をした共同ホスト」と「ホスト」は割り振られずにメインセッションに残る。「他の共同ホスト(いれば)」は割り振られる。



ブレイクアウトルームにいったん割り振った参加者をメインセッションに戻す操作は、「ホストまたは共同ホスト」にはできない。

割り振られた参加者は「メインセッションに戻れる設定」になっていれば自分で戻れる。
*ホスト、共同ホストは、そもそもブレイクアウトルームに入っても自分で移動して戻ることができる。


(2022年1月時点)(2022/01/19)

パワーポイントの「閲覧表示」で
画面共有をする

パワーポイントのスライドをオンライン会議で画面共有をするときには、「閲覧表示」が便利です。(ポインターも使える!)

*以下、Windows での操作です。

Zoom などのオンライン会議でパワーポイントをスライドショーにすると、PC画面一つだけだと、参加者の顔などが見えなくなってしまいます。(対策としては、外付けモニターや2台使いという手がありますが、PC1台だけというときもありますよね。)

スライドショーに画面をふさがれるのを避けるために、標準の編集画面にすると、メニューバーまで共有されてしまうし、アニメーションも使えません。(前後のスライドが見えるメリットがありますけどね。)

そんなときにお勧めしたいのが「閲覧表示」

ウィンドウの枠付きでスライドだけが表示されるので、枠サイズを小さくすれば、その外側に Zoom の参加者の画像などを表示させることができます。

「閲覧表示」にするには
画面右下に4つ並んでいる表示アイコンのうち、右から2つ目の「本を開いた図」を選ぶ
または メニュー > 表示 > 閲覧表示 を選択

「閲覧表示」では、アニメーションも表示され、だいたいスライドショーと同じように操作ができます。画面クリックで次のスライドに進みます。右方向キー「>」でもOK。

問題は「レーザーポインター」。右クリックしても「ポインターオプション」メニューが出てきません。

しかし・・・調べてみると、ありました!

「Ctrl 」キーを押したままマウス左ボタンを押すと、矢印が赤いレーザーポインターに変わります。マウスより先に Ctrl キーを押すのがコツ。後から押しても効きません。

この2つでPC画面一つでも、パワポスライドを使った画面共有がしやすくなるはずです。


「閲覧表示」を画面共有に使うときの注意点は、ウィンドウ枠にファイル名が表示されること。メモ的に書きこんだものまで見られてしまうので、問題がないか事前にチェックしておきましょう。



閲覧表示でレーザーポインターを表示する方法の参照元: マイクロソフト サポート マウスをレーザー ポインターに変更する

(2021/12/10)

マテリアリティ

マテリアリティ(materiality)

元々は会計(企業情報開示)用語ですが、最近はそれ以外でも使われる場面が増えているように感じます。「重要課題」と訳されたり、カタカナのまま「マテリアリティ」と使われます。従来の財務報告(財務諸表など)での定義と、最近のサステナビリティ報告での定義には違いがあります。

(参考)Google 検索でトップに出てくる、「未来をおしえて!アミタさん」にも、わかりやすい説明が載っています。


1.財務報告での用語

会計用語としての material は IFRS (国際財務報告基準)で定義されています。財務諸表の利用者の意思決定に影響を与えるかどうか、がポイントです。(2018年の改訂、2020年から発効)

Information is material if omitting, misstating or obscuring it could reasonably be expected to influence the decisions that the primary users of general purpose financial statements make on the basis of those financial statements, which provide financial information about a specific reporting entity.

出所: https://www.ifrs.org/news-and-events/news/2018/10/iasb-clarifies-its-definition-of-material/

(朝尾意訳)
組織が報告する財務諸表において、ある情報が除外されていたり、誤っていたり、曖昧にされていたりすることによって、財務諸表の利用者が行う意思決定に影響を与えるようなら、その情報は「マテリアル」である。


2.サステナビリティ報告での用語

サステナビリティ報告書のガイドラインを定める「 GRI スタンダード」のマテリアリティ(マテリアルな項目;material topics )の捉え方は、IFRS とは異なります。

「重要課題」と言ってしまえば同じなのですが、「 GRI スタンダード」では、当然、財務諸表(財務面の情報)に限っておらず、利用者が行う意思決定に影響を与えるかどうかにも触れていません。広く、経済・自然環境・人的(社会的)な面に対して顕著な「インパクト」があるかどうかで捉えられています。財務的なマテリアリティに当てはまらなくても、軽視してはならないという説明もあります。

「インパクト」は「マテリアルな項目」に先立って定義されるもので、「経済面・自然環境面・人権を含む人的な面に対して、組織の活動や取引関係によってもたらされうる影響」です。持続的な発展に対して、プラスの影響もあればマイナスの影響もあります。

GRI 1: Foundation 2021,  p. 8; 2-2 Material topics

An organization may identify many impacts on which to report. When using the GRI Standards, the organization prioritizes reporting on those topics that represent its most significant impacts on the economy, environment, and people, including impacts on their human rights. In the GRI Standards, these are the organization’s material topics.

出所: https://www.globalreporting.org/how-to-use-the-gri-standards/gri-standards-english-language/

(朝尾意訳)
組織は報告すべきインパクトをいくつも認識しうる。GRI スタンダードを使う組織は、経済面・自然環境面・人権を含む人的な面に対してとくに顕著なインパクトをもたらす項目を重要度に応じて報告する。GRI スタンダードにおいては、こうした項目が組織にとってのマテリアルな項目である。

(2021/10/29)

「成長を停止すると宣言する上場企業が今年中に現れる」という予想

最近の世の中の動きを見ていて十分ありうると思ったので、思い切って予想を書いてみました。日本の会社に限らず世界まで含めます。

上場企業はつねに株主の期待にさらされているので、「成長する」と言うのが建前です。なのに、どうしてこういう予想になるか。

人類は今、気候変動の危機に直面しています。2030年までの10年間に温暖化を一定の範囲に抑えらないと、温暖化が加速してしまうという見方があります。

そこで、少なくとも温暖化にブレーキをかけるのに成功するのを「サステナブル」だとしておきます。「サステナブルな経済成長」という考え方もありますが、両立は無理という説もあります。エネルギーの脱炭素化などを進めても間に合わないという説です。どちらが正しいかはわかりません。ただ、世界人口が年1億人近いペースで増え続けることを考えると、両立しないほうがふつうに思えます。

同じように、「サステナブルな経済成長」は現実的でないと捉える企業があってもおかしくありません。そして、それを真剣に受け止めれば、自分たちの会社も成長を図るべきでない、と考える可能性も十分にあります。

さらに、その認識に誠実であろうとするなら、株式市場にそのメッセージを送るでしょう。成長を停止する宣言をする方が株主や投資家から評価される、と読むかもしれません。

私は評価されると予想します。株価は下がらず、むしろ少し上がるのではないでしょうか。一部の株主・投資家は同じく、成長を図るとサステナブルでなくなると捉えているはずだからです。

ただ、その動きがどこまで広がるかは読めません。意外に大きなうねりになる可能性もありそうですが、それは期待に過ぎないように思います。

どんな会社がそのような宣言をするでしょうか。業種等はわかりませんが、ROE 5%以上を維持する見通しが条件になりそうです。利益額は横ばいまたはやや減少、温室効果ガスのネットゼロ(または減少)を2030年より前に実現、というようなシナリオだと思われます。

(2021/2/27)

ステークホルダー資本主義 
21のコア指標(2)

ダボス会議を主催する「世界経済フォーラム(WEF)」とその「国際ビジネス委員会(IBC)」が2020年9月に公表した非財務の ESG 情報を定量的に捉え開示するための共通指標。21のコア指標と拡大指標がある。

指標設定には、5つの有力な自主基準等設定団体が協力している

指標は4つの分野(柱, 4Ps)に分かれている

各コア指標は以下の表をご覧ください。日本語が適訳でないこともあります。

(2021/2/17)

ステークホルダー資本主義
21個のコア指標

2021年1月、 「ステークホルダー資本主義のコア指標」に、世界61の企業が支持を表明しました。 

指標は、ダボス会議を主催する「世界経済フォーラム(WEF)」とその「国際ビジネス委員会(IBC)」が昨年9月に公表したもので、いわゆる非財務の ESG 情報を定量的に捉え開示するための共通指標です。別のコラム記事「サステナビリティ情報開示基準」策定に向けた動きとも連動しています。

提示されたコア指標は21個。テーマと指標名は、次のいずれかをご覧ください。

61社WEFのウェブサイト内のこのページの下のほうに記載されています(英語)。
日本企業は、三菱商事、三菱UFJフィナンシャルグループ、ソニー、住友商事、三井住友フィナンシャルグループ、サントリーホールディングス、武田製薬 の7社。

(2021/2/3)

「非財務」の「財務」化

2021年1月25日の日経新聞朝刊一面の記事脱炭素で企業選別 野村アセット、300社を評価」

野村アセットマネジメントは非財務情報だった企業の二酸化炭素(CO2)排出量をコストに換算し、財務情報に組み込んで投資判断に活用する。

月内にも」とあることから、2021年1月から。
対象は「まず300社から始め、順次対象を広げる」とあります。

企業の二酸化炭素(CO2)排出量はトン単位で表示される「非財務情報」です。野村アセットマネジメント社の取り組みは、
『カーボンプライシング(炭素価格)』の仕組みを活用して、排出量を金額に換算するとあります。

これによって、自己資本やキャッシュフローなどの財務情報(金額)と比較、評価をするようです。
さらに、「企業価値への影響をより精緻に分析して適正株価も算出したい考えとあることから、単なる金額換算、比較ではなく、将来の業績への影響や投資家からの評価と数値的に関連づけると考えられます。

カーボンプライシング(炭素価格)」については、記事中の図表に「19年のEUの排出量取引価格を適用」とあり、市場価格を適用すると見られます。
ちなみに、記事後半にある日立の取り組みでは、「CO2排出1トンあたりの金額を5000円と設定」とあります。
調べてみると、別の記事「排出量取引価格、欧州で最高値 14年ぶり更新」で、先物価格で1トン31ユーロ台まで上がったとあります。1ユーロ126円で換算すると4,000円ぐらいです。

いずれにせよ、CO2排出量のように金額でない「非財務」情報であった指標が、このような形で金額の「財務」情報に換算される動きは今後も続くと思われます。別の記事に書いた「インパクト会計」はそういうプロジェクトです。 

(2021/1/28)

経営環境を「与件」と見る思考から脱する

私たちは、経営やマーケティングの計画を立てるとき、ほとんど無意識に当然のことのように、当社の事業にどのような影響を与えうるか、という観点で環境を捉えます。これを私は「与件」的な捉え方と呼び、その思考から脱する必要性を感じています。


昔、最初に勤めた会社で、計画を立てるときに経営・営業環境の認識から始めることを知りました。マーケティングを学んでも、環境分析から始めます。「3C」や「PEST」などの環境を捉えるフレームワークがあります。

使い方は、多くの方がご存知の通り、そうした環境を与件として認識し、自社が大きな売上や利益を得られるような戦略を描く、というものです。「与件」は、所与の条件、つまり「自分たちの便益向上を図る」うえで「与えられている条件」です。

経営環境を捉える情報を得るために、日経新聞はまさに最適なパッケージです。(私自身、長年の読者であることも白状しておきます。)そもそも日経新聞の読者は、株式投資・売買をする人が多いのだと思います。その場合はさらにわかりやすく、ニュースは株を売り買いする「材料」として捉えられます。株価が上昇する材料なのか、下落する材料なのか、と。

NHKのテレビニュースを見ていても、そういう受け取り方を促されるときがあります。例えば、税制が変わったとき、「私たちのくらしにどのような影響を及ぼすのでしょうか?」という問いに続いて、「年収がいくら以上の世帯では、いくらの増税になります」のように、立場に応じたプラスマイナスをわかりやすく教えてくれます。

いずれもニュースを「与件」と捉える見方です。「与件」的な捉え方が間違っていると言うつもりはありません。そういう捉え方が効果的な状況もあります。ただ気をつけたいのは、それに染まり切らないこと


「与件」的な捉え方は、「自己利益の最大化」を図る市場原理型の思考と一体です。しかし本来、人も会社も、社会や地球の一員です。市場原理を利用するのは、それが社会全体の便益を向上させると考えるからであって、手段でしかありません。ところが、「与件」的な思考に染まり切ると、「自分たちの便益」を高めることにしか関心が及ばなくなります。

人間の活動が地球に比べて肥大化した現代においては、市場原理が行き詰まっています。そんな時代だからこそ、「与件」的な思考を脱して、自分たちを社会や地球の一員として捉える視点を大切にしたい、と思うのです。

(2021/1/19)

「サステナビリティ情報開示基準」策定に向けた動き 

2020年9月、主要な5つの基準設定団体が「包括的な企業報告」の共通化を目指すという共同声明を出しました。
「包括的な企業報告」は、「財務会計基準」と「サステナビリティ情報開示基準」による開示を指し、2つの境目は変化する考えられています。
「サステナビリティ情報」は「ESG情報」「非財務情報」とも呼ばれます。この分野にはまだ、財務情報の IFRS のような基準がありません。

CDP:  (元 Carbon Disclosure Project)ロンドン

CDSB:  Climate Disclosure Standards Board ロンドン

GRI:  Global Reporting Initiative アムステルダム

IIRC:  International Integrated Reporting Council ロンドン

SASB:  Sustainability Accounting Standards Board サンフランシスコ


この共同声明では、下の図のように「マテリアリティが変化する」という考え方が示されています。

ESG 投資の規模は 世界運用資産の 1/3 

ESG 投資の規模は、世界運用資産全体の 1/3 を占めていると見られます。

ESG投資額は、30.7兆ドル(世界・2018年初め)

GSIA(Global Sustainable Investment Alliance 世界持続的投資連合)の調査によると
2018年初めの時点で、ESG投資運用資産は 30兆6830億ドル。2年前比 34%の増加。 


世界の運用資産は、88.7兆ドル(2019年末)

BCG (Boston Consulting Group )の調査によると
2019年末時点で、世界の「運用預り資産」全体は、88.7兆ドル。前年比 15%の増加。


2つの調査はタイミングも調査基準も同じとは言えませんが、ざっくりとした捉え方として、
「ESG投資額は、運用資産全体のおよそ3分の1を占める」と言えそうです。

(補足)「ESG投資」と「運用預り資産」とではギャップが感じられますが、
    「ESG投資」は、ESG investing assets の訳語、「運用預り資産」は、assets under management (AuM)  の訳語で、どちらも assets (資産)です。

(2020/12/17)

多くの人が経験している「自律分散型組織」の動き

自律分散型の組織では指示命令がない。とするとどんな風に人が動くのか? 想像がつかないという人もいるでしょうけど、ほとんどの人はこんな経験があるはずです。


会場の原状復帰作業――社外の研究会や社内の研修会などで、会議室のテーブル、イスのレイアウトを大きく変更したとき、終了後にみんなで元のレイアウトに戻す、あれのこと。

事務局の人が「時間のある人は残って、原状復帰に協力してください」と参加者に呼び掛ける。もちろん命令や強制ではないので、ここで帰る人もいる。

どのような状態に戻すかについては、たいてい事務局の人がホワイトボードに図を描いたり、口頭で説明したりして伝える。しかし、テーブルを動かす工程や、誰が何を運ぶかについての指示はない。

協力するために残った人は、周りを見て自分のできること、やるべきことを判断する。お互いにコミュニケーションを取り合って、うまく作業を進めることもある。もちろん、たくさん働く人や少ししか運ばない人やもいるが、目指すべき状態に向けて、それぞれが自発的に連係して動く。


これは身近な自律分散型の組織運営です。この例のように完全にフラットというわけではありません。呼びかける人と応える人がいるのは自然なこと。

確かに、テーブルやイスの流れだけを見たら、ムダな動きがあることも多いでしょう。しかし、事務局が作業分担を割り振ったり、テーブルを動かす順序を決めたりして、指示を出すのと比べたらどっちが効率的でしょうか? さらに参加者にとってはどっちが気持ちよくできるでしょうか?


(おまけ)
昔、日本ファシリテーション協会の集まりにちょくちょく参加していたころ、原状復帰作業をよくやりました。初対面のことも多い人たちと協力して行うその時間が、僕はなぜか好きでした。当時は理由までわからなかったのだけれど、今はわかります。その瞬間だけ自律分散型の組織が立ち上がるからです。

(2020/10/29)

「人的資本」の開示を求める米国 SEC の規則改正

2020年8月に、米国証券取引員会(SEC)は、財務諸表以外の開示規則の改正を決めました(発効は11月)。この分野の大きな改正は30年以上ぶりとのこと。

新たな規則の中の「事業 business」を説明する項目として、「人的資本 human capital resources」についての開示を求めています。

この規則改正は「原則主義 principles-based」にもとづいており、「細則主義 prescriptive」のように具体的な指標等を規定していないため、各企業は個別の状況に合った方法で開示することになります。

そのため、人的資本についても、それが何を指すのかをあえて定義せず、唯一指定した指標は「雇用者数」だけで、その企業の人的資本全般についての状況を説明することを求めているのが特徴です。



[参考にしたサイト]

 (2020/10/21)

SASB:  Sustainable Accounting Standards Board

この SASB は、サステナビリティ情報に関する開示基準を定める団体です。
サステナビリティ情報というのは、ESG情報とほぼ同じものを指します。

世界では会計情報にサステナビリティ情報を加えて一体化させる動きが進んでいます。背景には、企業の過去の財務情報の延長線だけでは将来が十分に見通せないので、投資家がサステナビリティ(持続可能性)に関連する情報も組み合わせて見る必要がある、という考え方があります。それだけ企業経営・業績が、環境や社会との関係の影響を受けるようになっている、と言えます。

(2020/10/09)

インパクト会計


*1: https://www.hbs.edu/impact-weighted-accounts/Pages/default.aspx

*2:  What is impact?  “Impact is a change in an outcome caused by an organization.  An impact can be positive or negative, intended or unintended.” www.impactmanagementproject.com  

*3:  インパクト投資 -現状とその可能性ー,p.1,三菱UFJ信託銀行資産運用情報 2019年5月号 https://www.tr.mufg.jp/houjin/jutaku/pdf/u201905_1.pdf  

参考記事:日経新聞2020年8月24日  https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62939220R20C20A8000000/

(2020/09/12)

協働学習

「協働学習 Collaborative learning 」と「協同学習 Cooperative learning 」について調べてみました。

とても詳しい論文があったので、メモ代わりに記録しておきます。


「協働学習」とは何か?   坂本 旬(法政大学キャリアデザイン学部 教授)

http://cdgakkai.ws.hosei.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2017/04/2008_010.pdf

◆以下、抜粋引用

(協働学習とは)

第一に、他の組織や地域、異なる文化に属していたり、多様で異質な能力を持った他者との出会いが前提となる。

第二に、学習者の高い自立性と対等なパートナーシップ、相互の信頼関係の構築である。

第三に、学習目標や課題、価値観および成果の共有である。

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この論文では、以上のように定義したうえで「協同学習」とは大きく性質が異なるとしている。

(2020/05/01)

従業員エンゲージメントが投資の指標になる日

つい先週(2020年3月20日付)の日経にこの記事が載りました。記事の最後はこのように締めくくられています。

"ESG投資家は今、企業の従業員の扱いに監視の目を光らせている。米資産運用大手ブラックロックは「気候変動問題同様、従業員の扱いにも経営陣が責任を持つように圧力をかける」との姿勢を示した。"

[有料会員記事]

つまり、ESG の E について気候変動問題への対応が重要な投資選別の指標になっているが、コロナ感染拡大をきっかけに、S の中の従業員待遇に注目が集まっている、という内容。


そして、今日(2020年3月24日付)の日経のこの記事。

[有料会員記事]

「エンゲージメント」(=働きがい)を重視し、それを指標化する取り組みが進んでいるという内容。こちらの記事では投資家の視点や ESG という言葉が出てきていない。しかし、両者が密接な関係にあることは明らか。

しかも、SDGs (ディーセントワーク、「働きがいも経済成長も」)とも関連するので、近いうちにこれらが一つの動きになるのは、ほぼ間違いないと思われます。2020年中にはそうした動きが顕在化すると予想。

(2020/03/24)

ガバナンスのタイプ: ルール型か人間関係型か

自律分散型組織と言っても一通りではない。ガバナンスのタイプで図のように分類できそうだ(仮説)。

ガバナンスは、人間関係によるものとルールによるものが組み合わせられる。そのウェイトを図の横軸に置いた。ここで言う「ガバナンス」は組織や集団の秩序や統合をもたらす働き、としておく。

右側の「ルールによるガバナンス」は簡単に言うと「法治」。左の「人間関係によるガバナンス」は「人治」。「人治」というと、誰か偉い人が治めるイメージが湧くかもしれないが、自律分散型組織の場合はあくまで「人間関係」であることに注意してほしい。

縦軸は、上に行くほど構成員の数が増える。また同じ規模でも構成員の入れ替わりが激しいほど上になる。

すると、現実の組織は一般に(自律分散型組織に限らず)、右上から左下にタスキ掛けにした斜め線の近くに位置づけられる。

具体例として「家族」は左下。数名で構成され、入れ替わりは少ない。通常、明文化されたルールは少なく、お互いについての理解やあうんの呼吸で成り立っている。いちいちルールを作る(明文化する)のは手間がかかって柔軟性に欠けるからだ。

右上の極端な例は「国家」だろう。少なくも日本ぐらいの規模であれば、人間関係で秩序を保つのは無理で、法律が重要な役割を果たす。かと言って「常識」的な暗黙の了解事項や「マナー」「モラル」がないとギスギスしてしまう面もあるので、ルールだけでもない。

その意味で、国家は「右上」ながら、国によってガバナンスにはタイプの違いがある。西欧(とくにプロテスタント系)の文化ではルール志向が強く、東洋(とくに儒教系)の文化では人間関係(人治)の傾向が強い。その結果、タスキ掛けした斜めの線から右側または左側に振れることになる。国家としてのアメリカは斜め線の(右上の)右側、中国は左側と言える。

このように現実の組織・集団は、構成員の文化傾向や規模などに応じて、両方のタイプの最適なバランスを探ることになる。


話を自律分散型組織に戻すと、米国発の「ホラクラシー」は典型的なルール型なので、図の右側に位置する。比較的小規模の事例(図の右下あたり)が多かったように思うが、大規模な組織でも対応できると考えられる。

日本人がホラクラシーのやり方を見て違和感を覚えることが多いのは、ルール志向の文化が合わないからだと言える。日本の企業組織には「ジョブディスクリプション」がほとんどない、とされることからもわかる。

自然経営研究会(発起人・代表理事)の武井浩三さんが長年代表を務めたダイヤモンドメディア社は、30 数名の小規模な組織なので、まず図の左下に位置する。さらに、かなり文脈重視の文化なので、斜め線の左側になる(上の図の「DM社」)。


どれぐらいの人数規模が縦軸の中央あたりかというのは難しいが、一つの区切りは100名ぐらいだと考えている。というのも互いに顔と名前が一致して人まとまりの感覚を持てるのが100数十名だとされるからだ。ただ、人数だけで決まるわけではないことにも注意しておきたい。

そうすると従業員数1,000名以上の、いわゆる大企業が自律分散型になるためには、ある程度ルールによるガバナンスを持ち込む必要が出てきそうだ。ダイヤモンドメディア社の事例をそのまま適用するのは無理だと感じるのは当たり前なので、「うちの会社は自律分散型組織に変われない」と諦めるのは待っていただきたいと思う。

※上の図は、2020年2月24日に開催が予定されていたパーソルラーニング社のセミナー https://www.facebook.com/events/224065891946859/  で使用する予定だったものです。コロナウイルス対策で無期延期となったので、このスライドだけここで公開することにしました。

※このような捉え方(仮説)は、武井浩三さんをはじめ、自然経営研究会のイベントやメンバーの皆さんからのインプットや対話があったからこそです。

(2020/03/11)

「自然(じねん)経営」のマイ定義

私も関わっている「自然(じねん)経営研究会」では、「自然経営」の定義を半ば意図的に明確にしていません。関わる人たちがそれぞれ考えるべきものだと受け止めています。

そこで、現時点の私なりの定義(マイ定義)を記しておきます。今後、変わっていくこともあるとお考え下さい。

自然経営=「愛を土台にした人と人との関わり合い方」

英訳案  A way of relating to each other based on love

最初に「愛」が来るのは意外感があるかもしれません。私もふだんから使う言葉ではありません。自然経営研究会でよく耳にする影響だと思います。

堅く言い換えるなら「人を大切にする価値観」。ただ「愛」のほうが「価値観」よりも人間的な側面が強く感じられます。


「愛」は何を表すか? 階層や管理は?

私たちは「自然経営」を「ティール組織」や「ホラクラシー」と並べて使っていて「階層構造も管理もない」というイメージを持っています。これはマイ定義の「愛」の部分に表されています。

本来、人に対する「愛」があれば、固定的な上下関係が当たり前にはなりません。他人を管理するという思想にもならないはずです。これを貫くと「必ずしも階層構造や管理がない」組織になる、というわけです。

※「必ずしも」と付けたように、状況に応じて変わる階層関係がないわけではなく、管理的な側面がまったくないわけでもありません。大事なのは他人を大切にする価値観です。


なぜ「関わり合い方」か?

「関わり合い方」は、「協力のしかた」としてもあまり困らないとも思いました。しかし「協力」だと、組織内の人達の関わり合いに限られそうなので、あえて広い言葉にしました。つまり組織外の、顧客や取引先に対しても「愛」を土台にした関わり方をする、ということです。突き詰めて言うと、社会の誰に対しても「愛」を持って関わることを意味します。

組織の構造や管理の有無といった特徴で表さなかったことには意味があります。「自然(じねん、jinen)」には「日本発の」という意味が込められています(自然経営研究会ビジョン参照)。日本の文化では、組織や社会のあり方を全体的に設計する思考がなく、個々の人間関係の集積として形づくられている側面が強いように見えます。それゆえ、関わり合いを起点にした表現にしました。

外形や構造的な特徴からアプローチしても、結果だけ見ればほぼ同じような姿と実態になると考えています(収斂深化による相似)。組織にはどちらの側面もあるのが普通です。ただ、日本の文化では個々の人の関わり合いが起点になっていると考えました。

さらに、組織の内部と外部の境界が曖昧になってきています。そのため、組織についての記述にしないことで、外部への広がりが得られるメリットもあると考えた。


「経営」は?

「経営」がどこに行ったのか、という問題がありますが、今回は先送りしました。そもそも「経営」がどの範囲を指すのかわかりにくいせいもあります。ちなみに研究会の英文表記は「Jinen Management Institute」になっています。

20190506

自然経営研究会 2019年3月のMC私的レビュー

3月の自然(じねん)経営研究会 Monthly Conference は、「ティール組織」の解説者、嘉村賢州さんがメインスピーカーでした。

https://201903mc.peatix.com/view


イベントのレポートは、こちらの記事が的確なので、ご覧ください。(研究会のメンバーによるものですが、どうやってこれほど正確かつ簡潔に要点をまとめたのかと驚くほどです。ニュアンスの違いをほぼ感じません。)

https://note.mu/shinobunn/n/nde1de0d4f617


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私的レビュー

★筆者の記憶・解釈にもとづいています。登壇者の発言を正確に踏まえている保証はありません。予めご了承ください。

※上で紹介したレポートに載っていない内容を記します。

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「ティール組織」の著者、フレデリック・ラルーさんが「無意識のうちに緊張していた」という話が印象に残りました。

賢州さんによると、ラルーさんはベルギーで暮らしていたけれど、今はアメリカのイサカにあるコミュニティに家族で移り住んでいるのだそうです。

移住する前の段階で、現地で暮らす家に行ったときには、家の中(間取りや調度品だったはず)を、自分の好みに合うように変えたいと思ったのだそうです。


ところが、実際に移り住んでみると、変えたいという気持ちがなくなった。

関心がコミュニティに関わったり貢献したりすることに向かい、自分の家のことに関心がなくなった。

イサカのコミュニティはとても安心感がある場所で、それに比べるとベルギーでの生活は気づかないうちに緊張をしていた。

だから、無意識のうちに「自分の城」を築こうとしていたのではないか、と気づいたのだそうです。


このラルーさんの話が、嘉村さんのお話しの中でどういう位置づけだったか、よく思い出せません。

「全体性」と関連して、ラルーさんが家族(との時間)を大切にされている話の延長だったかも。


僕は、現代の都市的な社会で暮らしていると、自分でも気づかないうち、戦闘モード、あるいは、自己防衛モードに入っているんだな、と受け取りました。

少し拡張気味に言うと、個人主義のプレッシャーにさらされているということ。

それが取り払われたときにはじめて、自分の緊張に気づくのでしょう。


もちろん、そのプレッシャーや緊張がない状態の方が(つねに)良い、とは限りません。

しかし、そこには僕(たち)が経験したことのない世界・社会がありそうです。

自然経営研究会 2019年2月のMC 私的レビュー

Post date: 2019/02/15 0:24:51

私(朝尾)も運営に関わっている「自然(じねん)経営研究会」の2月の Monthly Conference(月例会をそう呼んでいる)が先日行われました。

今回はこれまでで最も大規模で、事前のお申込みが、オンライン(zoom)参加を含めて200名に達しました。

[概要]

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自然(じねん)経営研究会 2月のマンスリー・カンファレンス

実践企業5社の経営陣が語る | “新しい組織”のリアル(2019/02/12)

パネルディスカッション(1)

「"新しい組織"への転換の進め方」

株式会社ISAO 代表取締役 中村圭志さん

株式会社ネットプロテクションズ 執行役員 秋山瞬さん

パネルディスカッション(2)

「 "事業の成長" と "新しい組織" を両立させる意義と難しさ」

株式会社ソニックガーデン 代表取締役社長 倉貫義人さん

ダイヤモンドメディア株式会社 代表取締役 武井浩三さん

★株式会社アトラエ 取締役CFO 鈴木秀和さんは急病によりご欠席

コーディネーター: 山田裕嗣さん(自然経営研究会、代表理事)

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[私的レビュー]

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★筆者の記憶・解釈にもとづいています。

登壇者の発言を正確に踏まえている保証はありません。

予めご了承ください。

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パネルディスカッション(1)

最初のお二人は、フラットよりオープンを強調されていた。

階層がなくフラットというのは、固定的な階層がないのであって、プロジェクト単位で主に決める人はいる。

ただ、その人が固定的でなく、プロジェクトによって代わり、プロジェクトにおいてもすべてを握っているわけではない、ということらしい。

むしろ、情報が公開・共有されてオープンであることが重要だと。

確かに、共有されていないと意思決定が情報を持っている人に集中してしまう。

もう一つ、非管理型・ティールと言われるような組織形態は、それ自体を目的にしたわけではないというのが、お二人の共通点。

事業がうまくいくように模索した結果、模索した結果辿り着いた形だと言う。

もちろん事業だけではなく、働く人の観点もあるわけだけれど、最初から階層や管理のない組織を目指したわけではないと。

パネルディスカッション(2)

次のお二人の会社の社員数はともに30数名。

倉貫さんの会社は全員がリモートワーク。16都道府県にまたがっているとのこと。

武井さんのところはオフィスがあって人が集まっている(マストではない)。

印象としては、倉貫さんは前のお二人と似ている。

管理しないのは、ムダな管理コストを減らすことと創造性を引き出すためだという。

大事なのは成果を出すことだと強調されていた。

昔と比べて職業が、量産的・繰り返しの仕事から創造的・一回かぎりの仕事に変わっているのに、マネジメントが変わっていなかったと。

これに対して武井さんは、組織の権力構造に対する理念的なものがあるように感じた。

事業(その成果)との両立(武井さんは「融合」と表現)は不可欠とは言いながらも、他の三人とはニュアンスの違いがあった。

例えば、株式会社の組織構造を突き詰めていくと、株主の権力に行き着くので、武井さんところの会社では、議決権を持株会に持たせて個人が行使できないようにしたとか、社会のあり方にまで発言が広がって「政治家みたいですね」と突っ込まれていた。

いずれにせよ、たいへん刺激的なパネル・ディスカッションだった。

会場参加だけで150名ほど、zoomによるオンライン参加がたぶん50名ほどで、このテーマに対する関心の高さを改めて実感できた。

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2019/02/15 0:24:51

Reflection 《リフレクション/振り返り》

Post date: 2019/01/11 6:41:59

経営シミュレーションをはじめ、体験型の研修では《リフレクション/振り返り》が学習に重要な意味を持ちます。その結果「気づきを得られた」とよく言われます。

「振り返りをすると、気づきを得られる」で、説明としては十分な気もしますが、少しだけ深く考えてみましょう。

私は、経験したことにさまざまな角度から光を当て、多面的な解釈をすることだと考えています。ふだんの捉え方や表面的な捉え方以外の見方をすることで、気づき・発見が得られる、というわけです。「経験」には心理的なことが含まれますから、自分自身の内面に関わる気づきが得られることもあります。

ウェブで検索したもので、分かりやすかったのがこれ。

Reflection is concerned with consciously looking at and thinking

about our experiences, actions, feelings, and responses, and then interpreting or analyzing them in order to learn from them(Atkins and Murphy, 1994; Boud et al., 1994). 

 The Open University のページから

(引用者訳・太字も引用者)

リフレクションは、自分たちの経験や行動、感情、反応について、意識的に向き合い、考えること、そのうえで学びをえるために解釈や分析を行うこと(に関わる)。

同じ資料で、クリティカル・シンキング型のリフレクションとして、3段階のステップで問い掛ける方法が示されています。(引用者意訳)

1)描写的な(客観的に捉える)問い

2)(背景・原因・心理など)分析的な問い

3)評価的な問い(他の道がありえたか、これからどうするか)

3つ目は「これから」に関わることなので、学びの観点からは重要ですね。

これはこれでいいのですが、自分の視点で問い掛けると、新たな視点・解釈が生まれにくいものです。したがって、他人の視点を活用するのが効果的です。

基本の方法として、一緒にいて同じ経験をした人、似た経験をした人と、話をしながら振り返ります。自分には見えていなかった切り口・解釈が得られるからです。

また、第三者に経験したことを話すのも効果的です。説明するときに自然に聞き手の視点で捉え直すだけでなく、思いがけない角度から質問やコメントをされるので、新たな気づきが得られます。

このほか《リフレクション》については、このページ(カオナビ人事用語集 リフレクションとは?)も、理論的背景や手法まで広くカバーされていて参考になります。

※弊社はこのサイトの会社と取引関係等はありません。

2019/01/11 6:41:59

GSIA Trend Report 2016

Post date: 2018/10/02 4:53:16

SRI資産は2014-2016の2年間で25%増加。

統計レポートを出しているのは、

Global Sustainable Investment Alliance という団体。

http://www.gsi-alliance.org/

そこのレポート(2年に1回発行)

The Global Sustainable Investment Review 2016

http://www.gsi-alliance.org/members-resources/trends-report-2016/

(レポートのスポンサーは Bloomberg とある)

◆SRI資産の成長率

             2014     2016     成長率 年率換算

Total $ 18,276  $ 22,890   25.2%   11.9%

◆総運用資産に対するSRIの比率

             2014     2016 

Global   30.2%   26.3%

SRIは年率約12%で成長したが、総運用資産の中では構成比が低下した。(これをどう見るべきなのかは、私にはよくわかりません。)

前の2年間(2012-2014)の成長ペースに比べると半減しているのと、当期間で最も構成比が大きい欧州での構成比が58.8%から52.6%に低下していることから、5割を超えると頭打ちになる可能性もある。(北米とアジア・日本はまだその水準に届いていない。)

ペイ・レシオ pay-ratio

Post date: 2018/07/19 8:58:59

ペイ・レシオとは、「経営トップの報酬(ペイ)が自社の平均的な従業員の何倍かの比率(レシオ)を表す。」(出所下記、以下同じ)

「米調査会社エクイラーによると、これまで1960社がペイ・レシオを公表。その中央値は65倍で、中には6000倍近い例もあった。」

米国では、「2010年制定の金融規制改革法(ドッド・フランク法=総合2面きょうのことば)による公表が今年から始まったのだ 」 という。

ペイ・レシオの「計算の分母となる従業員代表の給与算出には、パートや海外従業員も含めて真ん中に位置する数値(中央値)を使う。」 

そのため、「一般に多くの人手が必要なサービス業は高くなりがち」で「米国より低賃金国の従業員が多ければ分母は小さくなり、その分倍率が上がる」という。

例えば、グローバルなサービス業である「マクドナルドの場合、最高経営責任者(CEO)の報酬2176万ドル(約23億7000万円)に対し、従業員中間値はポーランドの店員の7017ドル(約76万円)となり、倍率が3000超になる。」

これに対し、「対照的なのがシリコンバレーのハイテク企業だ。フェイスブックの給与中間値は約2600万円。創業者マーク・ザッカーバーグ氏が9億6000万円と高報酬でも、倍率は40倍以内に収まる。」

このようにペイ・レシオは、単に経営トップの報酬の高さを表すわけではなく、主な従業員の業務内容や事業展開地域の賃金相場の影響も受ける。

とはいえ、ペイ・レシオの小ささは「トップと現場の格差」の小ささを示し、組織のフラットさを捉える指標の一つになる

※ 「」部分の出所:日経新聞2018年5月13日付記事 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO30438630T10C18A5MM8000/

オープンな組織の給与・報酬問題へのヒント

Post date: 2018/07/02 8:59:38

ティール組織、ホラクラシー経営などと言われる、権限が分散された組織では、給与・報酬の決定方法が課題となります。これに関しては、一つのうまくいく方法があると考えない方がよいようです。

先日参加した自然(じねん)経営研究会でも話題になりました。

この研究会は、今のところダイヤモンドメディア社の主催で、武井社長が山田さんと組んで司会をされています。

武井さんによると、給与の水準は世間の相場が一つの目安になります。このとき、人事部一括でなく、各チームが採用活動をしているので、チームメンバーに相場観がつくのだそうです。

また、年に2回ぐらい(?)全員の給与・評価についての話し合いが持たれるのだそうです。正解があるわけではないので面倒くさい面があるものの、一人一人の人事考課にかかる延べ時間数と比較すると、はるかに短いのだと言います。

この2点は重要なことだと思ったのでノートしておきます。

セクション機能を使って、パワーポイントの途中ページを簡単に開く

Post date: 2018/06/05 3:47:39

ページ数が数十枚から100枚を超えるパワーポイントファイルで、途中の数ページだけを編集したいとき、ファイルを開くたびにそのページまでのスクロールの手間がかかる。ちょっとしたことだが、繰り返すと面倒に感じる。

「お帰りなさい(前回編集した位置)」がスクロールバーに表示される機能があるが、数秒で消えてしまうためクリックし損ねることがある。

対策として、セクション機能を使う。予めページ(スライド)をセクションに区切っておく必要があるが、簡単な操作で狙ったセクションを素早く開ける。

左側のサムネイル画面を表示しておく。

1)ここでセクション名を右クリック。

2)出てきた選択肢から「すべて折りたたみ」をクリック。

3)その上で開きたいセクション名をクリック。

すると3クリックだけ、スクロールなしで、そのセクションの最初のスライドが開く。(そのセクションのサムネイルを開くには、もう1回だけクリックが必要)

私の場合、パワーポイントで作っている大学の講義資料の編集に使う。講義期間中は毎週、次回分のページに編集作業を加える。全15回、各回4ページなので、合計60ページ。

各回のページ(スライド)ごとにセクションを設定しておく。そうすると例えば、第9回用のページを編集したいときは、上記の方法でセクション「9」を狙って3クリックすれば開く。この方法のおかげで作業が少し快適になった。

国際会計基準(IFRS)適用企業が増加。米国基準は減少

Post date: 2018/04/27 4:57:29

More Public companies adapting IFRS in Japan

国際会計基準 189社 ※ 適用予定を含む。1年前比27社増。

米国基準 13社

日本基準 3,376社

(3月末時点)

国際会計基準を適用する企業が増え、米国基準が減少している。例えば、IFRS導入を検討していると記事にある「トヨタ、ソニー」は米国基準適用企業。

以上、2018年4月14日付 日経新聞記事「国際会計基準 200社迫る IFRS トヨタ・ソニー導入検討」より。

国際会計基準を適用している企業のリストは日本取引所グループのサイトに掲載されています。

IFRS適用済・適用決定会社一覧

長期的な視野を持つために With Long Term Views

Post date: 2018/04/27 4:55:02

「逆説の法則」(西成活裕・著)を読みました。  

長期的な視野を持つために、あえて目先の手間を惜しまずかけるべき、というのが著者の主張。

現代社会の諸問題は「長期的な視野の欠如」によるものが多く、その解決にこの「急がば回れ」的な「逆説」の考え方が役立つ、と。

逆説の法則は4つにまとめられているので、詳しくは本をご覧ください。

経営に直接かかわる分野、企業業績についても取り上げられています。

その一つとして提起されるのが、四半期ごとの開示をやめて、数年間をまとめて評価する長期会計を導入すること。

複数年度の通算会計は、公開されているデータを加工すればできるので、ぜひ開示を進めていただきたい(細かい精度の問題を無視すれば、の話)。

当初はあまり注目されないかもしれませんが、開示されれば発見もあるはず。読み方によっては ESG よりも頼りになるかもしれません。

フラットな組織、始まる。

Post date: 2018/04/20 7:31:01

昨年から今年の3月にかけて、ホラクラシ―をテーマにしたイベントが催された。3回シリーズを通してキーパーソンとして登壇されたのは、ダイヤモンドメディア社の武井浩三さん(社長)。

そして、武井さんの著書「会社からルールをなくして 社長も投票で決める会社をやってみた。人を大事にするホラクラシー経営とは?」が3月下旬に出版された。このイベントがきっかけで出版が決まったという。

「ホラクラシー」については少し説明が必要だ。

「ホラクラシー」とは、

従来の階層型(ヒエラルキー)に代わる新しい組織形態を表す言葉。

一般的には、組織内に上下関係がなく、透明性を重視し、メンバーの主体性に基づいて役割と権限を柔軟に調整しながら自律的に動いていく点が特徴。

アメリカではアマゾン傘下の優良企業であるザッポスが導入したことで注目を浴びる。従来の階層型(ヒエラルキー)に代わる新しい組織形態を表す言葉。

(同書冒頭ページ、Amazon 内容紹介より)

もう一つ、ホラクラシーをタイトルにした「HOLACRACY 役職をなくし生産性を上げるまったく新しい組織マネジメント」という本が出ている。米国のブライアン・J・ロバートソン氏によるこの本がきっかけで「ホラクラシー」という言葉が広まった。ザッポス社が導入したのは、このホラクラシー。

武井さんの会社や第2回に登壇された会社の組織形態は、米国発の「ホラクラシー」とはかなり違う。武井さん自身もそうおっしゃていた。しかし「ホラクラシー」という言葉がわかりやすいので使っていると。

この分野ではリカルド・セムラー氏の「奇跡の経営 一週間毎日が週末発想のススメ」が 2006年に出ている。そう考えると、以前からあるマネジメント手法の一つとも言える。

しかし、この3回シリーズに参加して感じたのは、ホラクラシーの実現にはITが欠かせないという点。裏返せば、ITが進化した今、組織形態も進化するタイミングを迎えている。

折しも、「進化型組織」とも訳される「ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」という本が今年の1月に出版された。こうした新しい組織形態をシンプルに「フラットな組織」と呼んでおこう。

2018年、フラットな組織、始まる。

僕自身、セムラー氏の著書などを読んで、以前から非階層型の組織を実現したいと考えてきた。そして、オープンな組織とエンパワーされた社員という言葉を組み合わせた社名にした。今こそ、積極的に関わっていこうと思っている。

ニトリHD の ROE

Post date: 2018/04/09 4:26:21

日経新聞の「新入社員のための財務講座(3)ROE」(2018/04/06付)で、ニトリホールディングスのROEの構成要素を3項の掛け算にした式が掲載されています。いわゆる「デュポン・システム」という考え方です。

ROE    =   売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ

15.4 % =  11.226 %            × 1.102 回         × 1.244 倍

となっています。

まず ROE 15% はかなり高い。

次に、構成要素を見ると、後ろの2項、総資産回転率と財務レバレッジは、とくに高い水準ではない。とくに財務レバレッジは低め。

ちなみに、財務レバレッジは、自己資本比率が 33% のとき3倍になり、50% だと2倍。1.244 倍ということは、自己資本比率が 50%を超えているということ。

それにも関わらず ROE が高いのは、最初の項である売上高純利益率が高いから

小売業で 10 % を超える売上高当期純利益率というのは、かなり収益性が高い。もっとも、ニトリは製造小売であって、単純な小売でないからこそと言える。

Capex and Opex

Post date: 2017/06/14 0:08:22

どちらも英文の財務報告などを読むと出てくることがある言葉ですが、ふつうの辞書には載っていません。

CAPEX, OPEX のように大文字になっていることもあり、短縮表記であることがわかります。

ネットで検索するとすぐに出てきます。

CAPEX:  Capital Expenditures

「資本的支出」。この言葉は使わないことが多いですね。意味は「投資支出」です。「設備投資など」と考えればよいのですが、「設備」とは限りません。

* Expenditure(s) は「支出」、つまり支払った金額なので、費用の Expense(s) とは区別されます。

OPEX:  Operating Expenses

「営業費用」。企業会計の損益計算区分で言うと、「営業利益」の前に引く費用に当たります。

「販売費及び一般管理費」かと言うと、そうとは限りません。Operating Expenses には、

a)  「売上原価 Cost of sales, Cost of goods sold」を含む場合と

b)  「売上原価」を除いた営業活動区分の諸費用 Expenses を指す場合

があるようです。

b)  の場合、日本の会計基準では「販売費及び一般管理費」と一致します。

営業利益 = 営業収益(売上高)-売上原価 -販売費及び一般管理費

a) の場合は、

営業利益 = 営業収益(売上高)-営業費用

Operating profit (income)   =  Revenue (Sales) - Operating Expenses

となります。英文の決算書ではこちらが多いように思います。

* OPEX には「運営費」という訳語もあり、プロジェクトなどで使われるものと思われます。

* Expense(s) は「費用」で、Expenditure(s) の「支出」とは異なります。支出額のうち、一部が費用計上されることもあります。

「多様性(ダイバーシティ)」に富んだ社会を築いていくことが、発展への原動力として不可欠

Post date: 2016/05/23 0:16:31

「政府の教育再生実行会議(座長・鎌田薫早稲田大総長)は20日、発達障害がある子供向けの教育の充実などを盛り込んだ第9次提言を安倍晋三首相に提出した。」

(日経新聞 2016/5/21付 記事より)

同提言、「全ての子供たちの能力を伸ばし可能性を開花させる教育へ」(第九次提言)

の「はじめに」より一部抜粋。(太字化引用者)

従来の工業中心の時代から、情報・知識が成長を支える時代に入り、情報通信技術をはじめとする科学技術の発展や急速なグローバル化は、社会の在り方に劇的な変化をもたらしています。近い将来には、IoT(Internet of Things)1や人工知能の進化等により、現在人間が行っている様々な仕事が機械により代替されると予想されるなど、その変化はますます加速しています。

このような情報化時代においては、人間にとって、コンピュータや機械で置き換えることのできない志、創造性、感性等が一層重要になります。社会の在り方としても、一人一人が多様な個性や能力を発揮し、新たな価値を創造したり、互いの強みを生かし合い、人が人としてより幸せに生きることのできる「多様性(ダイバーシティ)」に富んだ社会を築いていくことが、発展への原動力として不可欠と考えられます。

価値を生むのは「資産」でなく「人」

Post date: 2016/05/17 9:18:40

先日参加した勉強会で、組織開発の実務経験豊富な講師が次のようにおっしゃっていた。

「会社の価値を生むのは機械ではない。人だ。」

だから、人を大切にしなくてはならない、経営環境の変化に対応する力をつける必要がある、といった話が続く。

まさにその通りだと思う。

ここで元の話から逸れるのだが、財務面から見ると、これはかなり奇妙なことになる。

ROA 総資産利益率 に代表される資本利益率の指標は、

「会社がその資産を活用して利益を生み出した」

と捉え、その利回りを表す。

ROA = 利益 ÷ 総資産(資産合計)

※利益には経常利益や純利益などを用いる。

ところが、「人」は「資産」ではない。

「利益」の源泉となる「価値」を生み出しているのが「人」なのに、

ROA の計算分母に「人」は含まれない。

もちろん「人」は、利益を算出するときに、人件費などの形で引き算されるものの、

「活用効率」という観点はない。

したがって、利益(率)の高さを決める本当のキーが「人」であるのに、

ROA の計算式はそれを織り込んでいない、という事態になってしまう。

ROA は、ある意味で、タダ乗りをしているとも言えないだろうか?

※この記事内容は、応用的・発展的な検討の視点です。

キャッシュ・フローはウソをつかない!?

Post date: 2015/09/10 5:55:18

続けて、東芝の不正会計問題に関連した話題です。

バッシングする意図はありません。

いろいろと考えさせられ、学ぶべきことが多い事件だと思います。

今回は会計的な観点から。

過去に提出された「不適切な」有価証券報告書を訂正版と比較してみました。

当期純利益(非支配持分控除前)の差異の累計は、約2,100億円に上っています。

ところが、フリーキャッシュ・フローで見ると、23億円の差異しかありません。

※フリーキャッシュ・フローは、営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローの合計

グラフで見ると歴然です。

フリーキャッシュ・フローの差異は小さすぎてグラフでは目立ちません(2012, 2013年度はゼロ)。

ちなみに、キャッシュの残高に訂正はありませんでした!

改めて、〈利益〉は操作できても〈キャッシュ〉は操作しにくい、ことが確認できました。

注記:

グラフタイトルに記したように、当期純利益、フリーキャッシュ・フローの差異の累計額は、増加差異と減少差異があった場合に相殺しています。つまり、5年間を通算したときの訂正前と訂正後の差異です。

2013年度には、営業CFと投資CFの訂正差異が同額(約25億円)ずつあります。合算したフリーキャッシュ・フローでは相殺されて差異がなくなっています。

組織の体質 ~東芝の不正会計問題に思う

Post date: 2015/09/10 5:27:22

研修で会計分野を担当することが多い立場なので、東芝の不正会計問題は、やはり衝撃的な事件です。

前に会計ルールがどのように悪用されたかを取り上げましたが、より大きな問題は「組織の体質」です。 

まず、組織の体質に圧倒的な影響力があり、責任を負っているのはトップマネジメントです。と同時に、構成員も一定の責任を負っていると言えます。

不正を事実上強要する指示があったらどうするか、について私は答える立場にはありませんが、会社員時代と独立して働いている今とでは、明らかに違う感覚があります。

外の風を直接受けるかどうかの違いです。

会社勤めのころ、ビジネスに関する情報は会社というフィルターを通して、極めて限定的な受け取り方をしていました。

対外的な責任も、目の前のお客さんに対しては負うけれども、それ以外は直接負いません。

分業しているから当たり前かもしれませんが、そのぶん外の世界全般に対する感度は鈍ります。

年中エアコンの効いた部屋の中にいるような感覚です。

やがて「会社の中」が世界のほとんどであるかのように錯覚してきます。

自分の周りにまず会社があって、その外側に世界があるような感覚です。

そうなると会社の論理を優先しがちになります。 

我田引水になりますが、会計や経営シミュレーションをきっかけにして、事業の全体像を捉える経営的視点を養えば、「社会全体の中に」会社や自分の仕事を位置づけられるようになります。

そういう目を持った構成員が大勢いる組織のほうが、自己修正する力が強い組織だと思います。 

* * *

最初に就職した大手小売業を退職する半年ほど前に、創業者肝いりの大規模な社員販売キャンペーンがあったことを思い出しました。

10万円近い商品を一人一点、半ば強制的に知人や家族親戚に売れというものです。

納得できなかったのですが、結局自分で一つ買って贈り物にしました。

退職した直接の理由ではありませんが、会社をいつでもやめる腹積もりができたのはその時でした。

工事進行基準を利用した利益の水増し

Post date: 2015/06/18 23:55:07

最近ニュースが続いた、電機大手T社の不適切会計問題。

工事進行基準という会計ルールに関連したものが多かったようです。

建設工事に適用されるイメージがありますが、

今回のように情報システム等の開発プロジェクトにも適用されます。

工事進行基準は、工事の途中で進行に応じた売上を計上するルールですが、

それをどう利益の水増しに利用するのかは、わかりにくい部分があります。

T社で利益の水増しに使われたのは「見積総原価を実態より低く抑える」

という方法です。

日経新聞の記事によると、ある案件では、

コストダウンにより当初見積りよりも17億円抑制できるとしていたのに、

結果的にコストダウンできたのは1億円だったそうです。

日経新聞 2015年6月13日朝刊の記事

これによってどのように利益が水増しされたのでしょうか?

こちらのスライドをご覧ください。

ROE 5% 以上が条件に

Post date: 2015/03/10 3:05:01

議決権行使助言大手が、ROE が5年平均で5%未満の日本企業に対して、経営トップの選任議案に反対を推奨する方針を決めました。

米国のインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ社 Institutional Shareholder Services Inc. (ISS) が、日本企業に対する方針として決めたもので、2015年2月から施行される。

同社の資料には、「2014 年時点では、日本企業の約 33%が前述の基準を満たしていません」とあります。

(これは上場企業に限定した数値と考えられます。)

また、「このROEレベルは、最低水準であり、日本企業が目指すゴールとの位置づけではありません。」という補足説明も付いています。

他方、5年平均で5%未満であっても、ROEが改善傾向にある場合、具体的には「直近の会計年度に5%以上ある場合は、この方針は適用されない、つまり反対を推奨しない、という条件が付いています。

※ 詳しくはこちら

以上■

Japanese companies adopting IFRS doubled

Post date: 2014/10/29 23:50:34

日本企業の国際会計基準(IFRS)適用が倍増し、48社になったという日経新聞の記事が出ていました。(2014年10月29日付)

10月9日時点の金融庁の調査による。昨年から倍増とのこと。

うち2社は非上場で、上場企業では46社。

46社の時価総額は、全上場企業の13%を占めるという。

(全上場企業は4千社弱なので、1%強で1割強を占めることになります。)

ソフトバンク 2014/03月期の「子会社化に伴う一時益」

Post date: 2014/06/06 6:13:31

ソフトバンクは2014年5月7日、2014年3月期(2013年度)連結決算(国際会計基準)を発表した。売上高は前年同期比108.2%増の6兆6666億5100万円、営業利益は同35.8%増の1兆853億6200万円と増収増益だった。

(中略)

売上高は2013年7月に買収した米スプリントの影響が大きく、約2兆6000億円の押し上げ効果があった。営業利益についてもガンホー・オンライン・エンターテイメントとウィルコムの子会社化に伴う一時益が約2539億円の押し上げ効果となっており、これを差し引くと前年同期比4%増(321億円増)になる。

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「ITpro by 日経コンピュータ」サイトのニュース記事

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20140507/555102/

※下線は引用者による。

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ガンホー・オンライン・エンターテイメント(以下、ガンホーと表記)と、ウィルコムの子会社化に伴う一時益とは何でしょうか? ソフトバンクの決算短信を見てみました。

この2社の子会社化の経緯はちがっているのですが、いずれも「企業結合に伴う再測定による利益」が計上されています。

ここで言う「企業結合」は「子会社化」を指します。

ある会社を子会社化したときには、その時点でその会社に対する持分を「公正価値」で評価しなおしなさい、というルールがあります(日本基準、国際会計基準(IFRS)、米国会計基準とも共通)。これが「再測定」です。

「公正価値」は、決算書に示されている「簿価」ではなく、(かなり大雑把ですが時価に近いものだと考えておきましょう(「市場価格」「再調達価格」「将来キャッシュフローの現在価値」などで算出)。

まず、ガンホーの場合。

「段階的取得」と言われるもので、ソフトバンクは,元々ガンホーの一定割合の株式を保有していたが子会社にはなっていなかった。これを追加取得などによって(支配を獲得し)、子会社化しました。

このときに、元々保有していた株式(資本持分と言われます)を公正価値で再測定したら、高くなっていたので、その分を利益として計上した、というわけです。

「高くなっていた」というのは、元々保有していた株式は、その取得額などで、ソフトバンクの資産として計上されていたわけですが、それよりも再測定の結果が「高くなっていた」という意味です。

この金額が、150,120百万円(約1,501億円)。

次に、ウィルコムの場合。

ウィルコムは前からソフトバンクの子会社じゃなかったのか、と思う方も多いかもしれません。実際、ウィルコムの株式を100%保有していました。ところが、ウィルコムは会社更生会社だったため、ソフトバンクが支配していないということから、連結決算上の子会社にしていなかったのです。

ところが、2013年7月にウィルコムは更生手続きを終えたので、ソフトバンクの子会社になったのです。

したがって、ここでも公正価値での再測定が行われ、やはり高くなった分を利益として計上した、というわけです。

この金額が、103,766百万円(約1,038億円)。

ガンホーとウィルコムを合わせると、企業結合に伴う再測定による利益は約2,539億円となります。(上の記事と一致。)

※ この利益を「営業利益」に計上すべき理由や、それ以外の純損益区分ではダメなのか、については私はわかりません(包括損益は不可とされます)。

※ なお、この話は「のれん」とは直接対応していません。「のれん」は買収等によって他の会社を子会社化してときに発生するもので、資産(または負債)に計上されるものです(損益ではない)。

以上■

中小企業の財務比率指標

Post date: 2014/06/02 4:17:56

中小企業の財務比率指標など

質問を受ける機会があったので、参照用に記しておきます。

(他にもっと使いやすいものなどがあれば、教えてください。)

『TKC経営指標(BAST)』 (Business Analyses & Statistics by TKC)

・速報版は、業種別の各種財務指標がウェブ(ブラウザ)上で見られます。

・業種区分は、例えば小売業で38業種など、細かく分かれています。

・「平成26年版『TKC経営指標』(要約版PDF)」は、メールアドレス等を登録すれば無料でダウンロードできます。

・こちらは業種別の経営指標が、さらに優良企業と黒字企業に分けて掲載されています。

経営自己診断システム

・独立行政法人中小企業基盤整備機構のサイト。業種別の指標値が直接表示されるわけではなく、

調べたい企業の数値を入れると、評価とともに同業種の中央値などが示される形式です。

「中小企業信用リスク情報データベース(略称CRD)に蓄積されている約100万社の中小企業(うち7割は、年商3億円以下の比較的小規模な企業)の財務データを用いて」いるとのことで、とくに安全性が詳しくなっています。

中小企業基本実態調査

・2014年3月に、平成24年度決算実績の速報が公表されています。

・産業中分類までなので、細かい業種別の数字がわからない。また、いわゆる財務比率指標は業種別には出ておらず、金額データが中心。

中小企業の経営指標(H15年度=2003年度までで終了)

・以前はこの調査に細かい業種別の数字が出ていましたが、10年前に終了しています。

法人企業統計調査

・業種別の「財務営業比率指標」が出ているものの、規模区分されていないのが難点。

・業種別×規模別の区分は、金額ベースで出ているものの、比率は見当たりません。

・業種区分は、例えばサービス業は11業種ほどに分かれているものの、小売業は1つで細分化されていません。

H24年度の調査結果はこちら

以上■

アップルのビジネスの効率の高さを資産面から見る

Post date: 2014/02/26 6:40:42

iPhone や iPad でおなじみのアップル社(Apple, Inc.)。最近はそうでもありませんが、一時期、高株価による時価総額の高さが話題になりました。

株価は、財務諸表だけで説明することができませんが、そうするなら、一株当たりの純利益が大きい、というのが基本になるでしょう。

ここでは営業(オペレーション)用資産の面に絞って、ビジネスの効率の高さを見てみます。

●運転資本が少ない(どころかマイナス!)で、キャッシュの回りがよい

運転資本は、本業の運転に必要な資金です。

仕入れに支払ったキャッシュは、売上代金を受け取ったら返ってきますが、それまでの間は手元にありません。つねに一定の金額がキャッシュとして手元にない状態になっています。これが運転資本です。

運転資本の金額は、売掛金などの受取債権と棚卸資産の合計から、買掛金などの支払債務を引いた金額です。(※1)この金額が大きくなるとそのぶんキャッシュが少なくなるので、財務的には少ない方がよいものです。

◇運転資本の比較

アップル: △8,478 百万ドル、売上比 約△5%(2013/9月期、平均)

パナソニック:  961,641 百万円、売上比 約13%(2013/3月期、平均)

驚くべきことにアップルはマイナスです。ということは、売上が大きくなればなるほど手元にキャッシュが潤います。

これを、現金が支出されてから売上代金が入って再び現金化されるまでの日数に換算したものが、キャッシュ・コンバージョン・サイクルという指標で、たまに日経新聞に記事がでます。(※2)

●有形固定資産が少ない(いわゆるファブレス)

アップルはメーカーでありながら、自ら生産工場を持たない「ファブレスメーカー」として知られています。生産を担っているのは、EMSと呼ばれる電子機器の製造受託サービス会社です。その結果、有形固定資産の大きさが驚くほど小さいのです。

ここでは売上高に対する比率で見てみます。

◇有形固定資産の比較

アップル: 16,025百万ドル、売上比 約9%(2013/9月期、平均)

パナソニック: 1,704,886百万円、売上比 約23%(2013/3月期、平均)

アップルはパナソニックの半分以下です。

これでもアップルの有形固定資産は過去数年間でかなり増加したようです。(※3)

●キャッシュリッチ

運転資本がマイナスで、有形固定資産が少ないとなると、いったいどんな資産を持っているのでしょうか?

キャッシュや売却可能証券(債券など)です。なんと資産の6~7割を占めます。本来、こういうものは金利以上の利益を生み出さないので、株価を上げる要素にならないのですが、それでも高株価なのは、本業の生み出す利益の大きさに対する期待が高いのでしょう。

※1: 運転資本の定義について

運転資本は、本来の定義は、流動資産の金額とされます。

運転資本=流動資産

Working capital = Gross current assets

そして、そこから流動資産の金額を控除したものが、正味の運転資本とされます。

正味運転資本: 流動資産-流動負債

Net working capital = Current assets – Current liabilities

ところが、実務上よく使われる運転資本は、正味運転資本のうち本業に関わるもので、かつキャッシュを除いたもので、次のような計算式になります。

運転資本=(売掛金+受取手形)+棚卸資産 -(買掛金+支払手形)

Operating working capital

 = [Current assets - Cash & Securities] - [Current liabilities - Non interest bearing current liabilities]

※英文と日本語は対応していません。

この記事では、最後の定義(用法)を用いました。

※2: アップルのキャッシュ・コンバージョン・サイクルの値について

日経新聞記事では、約マイナス20日となっています。http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD060HK_Q2A110C1SHA000/

(参考記事: パナソニックほかとの比較チャート)http://www.nikkei.com/article/DGXNASGD11053_S2A110C1SHA000/

弊社で改めて計算したところ、ちょっと水準の異なる値が出ました。

キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)

アップル: △42日

パナソニック: 47日

これも算出基準の違いによるようです。ここでは、以下の計算式を用いました。

キャッシュ・コンバージョン・サイクル

= 売上債権回転日数+棚卸資産回転日数-仕入債務回転日数

= 平均売上債権/(売上高/365)+平均棚卸資産/(売上原価/365)-平均仕入債務/{(売上原価+棚卸資産増加額)/365}

Cash Conversion Cycle (CCC) =DIO+DSO-DPO

DIO:  days inventory outstanding

DSO:  days sales outstanding

DPO:  days payable outstanding

<http://www.investopedia.com/terms/c/cashconversioncycle.asp>

CCC = Number of days between disbursing cash and collecting cash in connection with undertaking a discrete unit of operations.

= Inventory conversion period   +   Receivables conversion period   –   Payables conversion period

= Avg. Inventory / (COGS / 365)  +  Avg. Accounts receivable / (Sales / 365)  – Avg. Accounts payable / ([inventory increase +COGS] / 365)

<http://en.wikipedia.org/wiki/Cash_conversion_cycle>

※3: アップルの有形固定資産の増加とファブレスについて

今回時系列のデータは算出しませんでしたが、ニッセイ基礎研究所の下記レポートによると、2010年度以降、アップルの有形固定資産は急増しており、もはやファブレスモデルとは言えないとされています。

レポート掲載ページ: http://www.nli-research.co.jp/report/nlri_report/2012/report130329-2.html

レポート: http://www.nli-research.co.jp/report/nlri_report/2012/report130329-2.pdf

包括利益とは? Comprehensive income

Post date: 2013/09/04 1:55:51

「包括利益計算書」を目にすることが増えました。損益計算書とは何が違う

のでしょうか?

●包括利益

まず「包括利益」は、「当期純利益(※)」と「その他の包括利益」を足し

たものです。※日本基準で正確には「少数株主損益調整前当期純利益」。

では「その他の包括利益」は何かというと、一部の資産について時価評価

したことで生じた含み益(または含み損)や、外貨を換算したときの差額など

です。(正確には、これらによる期間中の資産の増減額です。)

これらは、その期間中に実現した利益(または損失)ではないので、期間中に

実現した利益である「当期純利益」には織り込まずに「その他の包括利益」

として分けて表示します。

そして両者をひっくるめたものが「包括利益」です。

なお、「その他の包括利益」は、貸借対照表の純資産の部「その他の包括

利益累計額」に反映されます。

●包括利益計算書(「連結」が頭に付きますが、ここでは省略)

「包括利益計算書」は、日本の会計基準では「損益計算書」と切り離されて

いるものを指します。これは「少数株主損益調整前当期純利益」から始まります。

このように2つの表に切り離す方式と、1つの表にまとめる方式のいずれか

を選ぶことができます。「損益計算書」と一体(1表)になっているものは

「損益及び包括利益計算書」という名称になります。

国際会計基準(IFRS)では、損益計算書と切り離されているものも、

1表になっているものも「包括利益計算書」と呼ばれます。

IFRS 適用企業 Japanese companies adopting IFRS

Post date: 2013/09/04 1:53:22

今年(2013年)8月時点でIFRS(国際会計基準)を適用している会社は15社。

適用予定を公表しているのは5社です。

◇東京証券取引所:<http://www.tse.or.jp/rules/ifrs/info.html>

●すでに適用している会社(15社)と決算短信の適用開始期

2010年3月期~ 日本電波工業

2011年3月期~ HOYA、住友商事

2012年3月期~ 日本板硝子、日本たばこ産業

2013年3月期~ ディー・エヌ・エー、アンリツ、SBIホールディングス、

マネックスグループ、双日

2013年11月期~ トーセイ

2013年12月期~ 中外製薬、楽天、ネクソン

2014年3月期~ ソフトバンク

●適用予定を公表している会社(5社)と決算短信の適用開始期

2013年12月期~ 旭硝子

2014年3月期~ 丸紅

2014年3月期~ アステラス製薬、武田薬品工業、小野薬品工業

※第1四半期決算短信から適用する場合と年度の決算短信から適用する場合、

あるいは有価証券報告書から適用する場合など細かい違いがあります。

なお米国会計基準(USGAAP)を適用している会社は30社余り。

リストは以下をご覧ください。

◇新日本有限責任監査法人 2012年9月調査:

<http://www.shinnihon.or.jp/corporate-accounting/case-study/2012/2012-10-11-02.html>

ROAの意味を直感的につかむ

Post date: 2013/05/17 6:41:15

Making sense of ROA

財務分析の研修で、ROAやROEという資本利益率の指標を取り上げます。

上場企業にとっては極めて重要な利益率指標ですが、多くの受講者には、「資本(資産)に対する利益率」というものがイメージしづらいようです。

直感的にわかる説明方法として、最近わりと良い反応を得ているのが、マンションを題材にした説明です。

一部をご紹介します。

◆マンション経営とROA

マンションアルファは、年間の家賃収入が12百万円。

ところが税金を含め、もろもろの費用を引くと、残るのは3百万円です。

これを純利益とし、家賃収入を売上高とすると、売上高利益率は、3百万円÷12百万円=25%。

けっこう高い利益率のマンションではありませんか!?

このマンションを経営しようと思いますか?

いやいや、抜け落ちている数字がありますね。いくらのマンションか、です。

マンションアルファを買うには1億円かかります。つまり資産額1億円(=100百万円)です。

とすると、1億円をマンションアルファに投資したときの運用利回りは

純利益3百万円÷投資額100百万円=3%(年率)。

これが資産利益率(ROA)で、預金金利と比較可能な率です。

会社の中で働く私たちは、家賃収入にあたる「売上高」を基準に利益率を捉えることが多いのですが、

投資家の立場では、マンションの価格にあたる資産額を基準に利益率(利回り)を捉える方が大切です。

いかがでしょう、ROAのイメージが湧いたでしょうか?

国際会計基準ではなぜ定額法が主流か?

Post date: 2013/05/17 6:34:41

Why straight-line method in IFRS?

国際会計基準〔IFRS〕を採用する日本企業が増えており、経団連によると約60社に達する見通しだそうです。

それと連動するような形で、減価償却の方法を定率法から定額法に切り替える(正確には定額法の適用対象を広げる)企業も増えています。

国際会計基準でも定率法は認められていますが、大勢は定額法と言われるため、その採用に先行して定額法に切り替える動きが出ているようです。

「なぜ国際会計基準では定額法が主流なのか?」について調べたところ、納得のいく理由は以下のようにまとめられました。

1) 定率法にはいろいろな償却率の値があり、どの償却率を用いるかの判断が難しい

2) 減価償却の対象となる資産の価値が(定額以上に)大幅に低下するなら減損会計を適用すればよい

こうした考え方が背景にあるようです。

※ 1) について補足をすると、「いろいろな償却率」というのは、耐用年数や対象資産の種類による償却率のちがいではなく、価値を低下させていくカーブの傾きのちがいです。

日本では税法にもとづく償却率で計算するのが基本ですが、例えば最近では昨年度変わりました。(250%定率法⇒200%定率法)

※主に参考にした記事

http://www.avantia.or.jp/ifrs/1164

http://www.abitus.co.jp/learning/partner/backnumber/pdf/abitus24.pdf

シャープ 13年3月期決算より

Post date: 2013/05/17 6:31:08

From financial release of SHARP for FY2012

先日(20130514)、シャープの決算が発表されました。2012年3月期の3760億円の最終赤字に続いて、2013年3月期は5453億円の最終赤字(当期純損失)ですから、たいへんな数字です。

これによって、自己資本比率が6.0%に低下しています(13年3月期末)。〔12年3月期末は23.9%〕

自己資本比率は、50%を超えると良い(安全)と言われますが、それはやや堅めの数字で、上場企業の平均で30~40%ぐらいです。

次に、純損失の約5500億円にいたる内訳をみると(以下、百億円単位に四捨五入)

・営業損益 △1500億円

・営業外損益 △ 600億円

・特別損益 △2600億円〔うち事業構造改革費用△1400億、減損損失△500億〕

・法人税等 △ 800億円〔うち繰延税金資産の取り崩し△700億〕

〔以上、合計 △5500億円)

となっています。

特別損益の大部分は上記の通り、事業構造改革費用と減損損失が占めています。

なお、これらのおそらく大部分は、国際会計基準、米国会計基準であれば、営業利益の前に計上することになります。

また、法人税等のほとんどは繰延税金資産の取り崩しによるものです。

「繰延税金資産」については、こちらをご覧ください。

※シャープの最新決算(201303月期)情報URL

決算短信: http://www.sharp.co.jp/corporate/ir/library/financial/pdf/2013/1/1303_4q_tanshin.pdf

プレゼンテーション資料: http://www.sharp.co.jp/corporate/ir/library/financial/pdf/2013/1/1303_4pre.pdf

繰延税金資産 Deferred Tax Assets

Post date: 2013/03/29 8:27:22

《繰延税金資産》は、企業の業績が悪化したときに、「繰延税金資産の取り崩しのために損失が拡大」というような文脈で出てきます。業績が悪いときに拍車をかけて利益を減らす(損失を増やす)要因になるわけですから、その簡単なしくみを知っておくと役立ちます。

《繰延税金資産》についての ごく簡単な説明。

すでに支払った税金(の一部)を前払いと捉え、損益計算に計上するのを先送りした(繰り延べた)もの。次の期以降に税金を損益計算に計上するときに充てられる資産とみなす。

ところが、次の期以降に業績が悪化し、それだけの税金がかかる見込みがなくなると、前払いという前提が崩れるので、すぐに取り崩して損益計算に計上する必要がある。

税金(法人税)の計算をするための税務会計と、純利益の計算をするための財務会計とで、法人税を計上するタイミングが異なることから生じる。

※ 会計上の正確さを期した説明ではありません。ご了承ください。