アップルのビジネスの効率の高さを資産面から見る

2014/02/25 22:40 に Naota ASAO が投稿   [ 2014/02/25 22:48 に更新しました ]
iPhone や iPad でおなじみのアップル社(Apple, Inc.)。
最近はそうでもありませんが、一時期、高株価による時価総額の高さが
話題になりました。

株価は、財務諸表だけで説明することができませんが、そうするなら、
一株当たりの純利益が大きい、というのが基本になるでしょう。
ここでは営業(オペレーション)用資産の面に絞って、ビジネスの効率の高さを
見てみます。

●運転資本が少ない(どころかマイナス!)で、キャッシュの回りがよい

運転資本は、本業の運転に必要な資金です。
仕入れに支払ったキャッシュは、売上代金を受け取ったら返ってきますが、
それまでの間は手元にありません。
つねに一定の金額がキャッシュとして手元にない状態になっています。
これが運転資本です。

運転資本の金額は、売掛金などの受取債権と棚卸資産の合計から、
買掛金などの支払債務を引いた金額です。(※1)
この金額が大きくなるとそのぶんキャッシュが少なくなるので、
財務的には少ない方がよいものです。

◇運転資本の比較
アップル:   △8,478 百万ドル、売上比 約△5%(2013/9月期、平均)
パナソニック:  961,641 百万円、売上比 約13%(2013/3月期、平均)

驚くべきことにアップルはマイナスです。
ということは、売上が大きくなればなるほど手元にキャッシュが潤います。

これを、現金が支出されてから売上代金が入って再び現金化されるまでの
日数に換算したものが、キャッシュ・コンバージョン・サイクルという指標で、
たまに日経新聞に記事がでます。(※2)


●有形固定資産が少ない(いわゆるファブレス)

アップルはメーカーでありながら、自ら生産工場を持たない「ファブレスメーカー」
として知られています。生産を担っているのは、EMSと呼ばれる電子機器の
製造受託サービス会社です。
その結果、有形固定資産の大きさが驚くほど小さいのです。
ここでは売上高に対する比率で見てみます。

◇有形固定資産の比較
アップル:   16,025百万ドル、売上比 約9%(2013/9月期、平均)
パナソニック: 1,704,886百万円、売上比 約23%(2013/3月期、平均)

アップルはパナソニックの半分以下です。
これでもアップルの有形固定資産は過去数年間でかなり増加したようです。(※3)


●キャッシュリッチ

運転資本がマイナスで、有形固定資産が少ないとなると、いったいどんな資産を
持っているのでしょうか?

キャッシュや売却可能証券(債券など)です。なんと資産の6~7割を占めます。
本来、こういうものは金利以上の利益を生み出さないので、株価を上げる要素に
ならないのですが、それでも高株価なのは、本業の生み出す利益の大きさに対する
期待が高いのでしょう。



※1: 運転資本の定義について

運転資本は、本来の定義は、流動資産の金額とされます。
運転資本=流動資産
Working capital = Gross current assets

そして、そこから流動資産の金額を控除したものが、正味の運転資本とされます。
正味運転資本: 流動資産-流動負債
Net working capital = Current assets – Current liabilities

ところが、実務上よく使われる運転資本は、正味運転資本のうち本業に関わるもので、
かつキャッシュを除いたもので、次のような計算式になります。
運転資本=(売掛金+受取手形)+棚卸資産 -(買掛金+支払手形)
Operating working capital
 = [Current assets - Cash & Securities] - [Current liabilities - Non interest bearing current liabilities]
※英文と日本語は対応していません。

この記事では、最後の定義(用法)を用いました。


※2: アップルのキャッシュ・コンバージョン・サイクルの値について

日経新聞記事では、マイナス20日となっています。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD060HK_Q2A110C1SHA000/
(参考記事: パナソニックほかとの比較チャート)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGD11053_S2A110C1SHA000/

弊社で改めて計算したところ、ちょっと水準の異なる値が出ました。
キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)
アップル:   △42日
パナソニック: 47日

これも算出基準の違いによるようです。ここでは、以下の計算式を用いました。
キャッシュ・コンバージョン・サイクル
= 売上債権回転日数+棚卸資産回転日数-仕入債務回転日数
= 平均売上債権/(売上高/365)+平均棚卸資産/(売上原価/365)-平均仕入債務/{(売上原価+棚卸資産増加額)/365}

Cash Conversion Cycle (CCC) =DIO+DSO-DPO
DIO:  days inventory outstanding
DSO:  days sales outstanding
DPO:  days payable outstanding

CCC = Number of days between disbursing cash and collecting cash in connection with undertaking a discrete unit of operations.
= Inventory conversion period   +   Receivables conversion period   –   Payables conversion period
= Avg. Inventory / (COGS / 365)  +  Avg. Accounts receivable / (Sales / 365)  – Avg. Accounts payable / ([inventory increase +COGS] / 365)


※3: アップルの有形固定資産の増加とファブレスについて

今回時系列のデータは算出しませんでしたが、ニッセイ基礎研究所の下記レポートによると、
2010年度以降、アップルの有形固定資産は急増しており、もはやファブレスモデルとは
言えないとされています。

レポート掲載ページ: http://www.nli-research.co.jp/report/nlri_report/2012/report130329-2.html
レポート: http://www.nli-research.co.jp/report/nlri_report/2012/report130329-2.pdf


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