経営環境を「与件」と見る思考から脱する

私たちは、経営やマーケティングの計画を立てるとき、ほとんど無意識に当然のことのように、当社の事業にどのような影響を与えうるか、という観点で環境を捉えます。これを私は「与件」的な捉え方と呼び、その思考から脱する必要性を感じています。


昔、最初に勤めた会社で、計画を立てるときに経営・営業環境の認識から始めることを知りました。マーケティングを学んでも、環境分析から始めます。「3C」や「PEST」などの環境を捉えるフレームワークがあります。

使い方は、多くの方がご存知の通り、そうした環境を与件として認識し、自社が大きな売上や利益を得られるような戦略を描く、というものです。「与件」は、所与の条件、つまり「自分たちの便益向上を図る」うえで「与えられている条件」です。

経営環境を捉える情報を得るために、日経新聞はまさに最適なパッケージです。(私自身、長年の読者であることも白状しておきます。)そもそも日経新聞の読者は、株式投資・売買をする人が多いのだと思います。その場合はさらにわかりやすく、ニュースは株を売り買いする「材料」として捉えられます。株価が上昇する材料なのか、下落する材料なのか、と。

NHKのテレビニュースを見ていても、そういう受け取り方を促されるときがあります。例えば、税制が変わったとき、「私たちのくらしにどのような影響を及ぼすのでしょうか?」という問いに続いて、「年収がいくら以上の世帯では、いくらの増税になります」のように、立場に応じたプラスマイナスをわかりやすく教えてくれます。

いずれもニュースを「与件」と捉える見方です。「与件」的な捉え方が間違っていると言うつもりはありません。そういう捉え方が効果的な状況もあります。ただ気をつけたいのは、それに染まり切らないこと


「与件」的な捉え方は、「自己利益の最大化」を図る市場原理型の思考と一体です。しかし本来、人も会社も、社会や地球の一員です。市場原理を利用するのは、それが社会全体の便益を向上させると考えるからであって、手段でしかありません。ところが、「与件」的な思考に染まり切ると、「自分たちの便益」を高めることにしか関心が及ばなくなります。

人間の活動が地球に比べて肥大化した現代においては、市場原理が行き詰まっています。そんな時代だからこそ、「与件」的な思考を脱して、自分たちを社会や地球の一員として捉える視点を大切にしたい、と思うのです。