ガバナンスのタイプ: ルール型か人間関係型か

自律分散型組織と言っても一通りではない。ガバナンスのタイプで図のように分類できそうだ(仮説)。

ガバナンスは、人間関係によるものとルールによるものが組み合わせられる。そのウェイトを図の横軸に置いた。ここで言う「ガバナンス」は組織や集団の秩序や統合をもたらす働き、としておく。

右側の「ルールによるガバナンス」は簡単に言うと「法治」。左の「人間関係によるガバナンス」は「人治」。「人治」というと、誰か偉い人が治めるイメージが湧くかもしれないが、自律分散型組織の場合はあくまで「人間関係」であることに注意してほしい。

縦軸は、上に行くほど構成員の数が増える。また同じ規模でも構成員の入れ替わりが激しいほど上になる。

すると、現実の組織は一般に(自律分散型組織に限らず)、右上から左下にタスキ掛けにした斜め線の近くに位置づけられる。

具体例として「家族」は左下。数名で構成され、入れ替わりは少ない。通常、明文化されたルールは少なく、お互いについての理解やあうんの呼吸で成り立っている。いちいちルールを作る(明文化する)のは手間がかかって柔軟性に欠けるからだ。

右上の極端な例は「国家」だろう。少なくも日本ぐらいの規模であれば、人間関係で秩序を保つのは無理で、法律が重要な役割を果たす。かと言って「常識」的な暗黙の了解事項や「マナー」「モラル」がないとギスギスしてしまう面もあるので、ルールだけでもない。

その意味で、国家は「右上」ながら、国によってガバナンスにはタイプの違いがある。西欧(とくにプロテスタント系)の文化ではルール志向が強く、東洋(とくに儒教系)の文化では人間関係(人治)の傾向が強い。その結果、タスキ掛けした斜めの線から右側または左側に振れることになる。国家としてのアメリカは斜め線の(右上の)右側、中国は左側と言える。

このように現実の組織・集団は、構成員の文化傾向や規模などに応じて、両方のタイプの最適なバランスを探ることになる。


話を自律分散型組織に戻すと、米国発の「ホラクラシー」は典型的なルール型なので、図の右側に位置する。比較的小規模の事例(図の右下あたり)が多かったように思うが、大規模な組織でも対応できると考えられる。

日本人がホラクラシーのやり方を見て違和感を覚えることが多いのは、ルール志向の文化が合わないからだと言える。日本の企業組織には「ジョブディスクリプション」がほとんどない、とされることからもわかる。

自然経営研究会(発起人・代表理事)の武井浩三さんが長年代表を務めたダイヤモンドメディア社は、30 数名の小規模な組織なので、まず図の左下に位置する。さらに、かなり文脈重視の文化なので、斜め線の左側になる(上の図の「DM社」)。


どれぐらいの人数規模が縦軸の中央あたりかというのは難しいが、一つの区切りは100名ぐらいだと考えている。というのも互いに顔と名前が一致して人まとまりの感覚を持てるのが100数十名だとされるからだ。ただ、人数だけで決まるわけではないことにも注意しておきたい。

そうすると従業員数1,000名以上の、いわゆる大企業が自律分散型になるためには、ある程度ルールによるガバナンスを持ち込む必要が出てきそうだ。ダイヤモンドメディア社の事例をそのまま適用するのは無理だと感じるのは当たり前なので、「うちの会社は自律分散型組織に変われない」と諦めるのは待っていただきたいと思う。

※上の図は、2020年2月24日に開催が予定されていたパーソルラーニング社のセミナー https://www.facebook.com/events/224065891946859/ で使用する予定だったものです。コロナウイルス対策で無期延期となったので、このスライドだけここで公開することにしました。

※このような捉え方(仮説)は、武井浩三さんをはじめ、自然経営研究会のイベントやメンバーの皆さんからのインプットや対話があったからこそです。